『国宝』から『19番目のカルテ』へ セリフだけに頼らない田中泯の“オドリ”という表現

 さて、田中泯といえば封切りから3カ月が経過してもなお、映画『国宝』に刻み込んだ演技(=オドリ)が話題である。彼が演じた小野川万菊は当代一の女形であり、人間国宝の歌舞伎役者だ。歌舞伎界を舞台とした“血と才能の物語”において、若き歌舞伎役者たちに強烈な影響を与える役どころである。

『国宝』©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会

 万菊の口にする言葉は、主人公である喜久雄(吉沢亮)の心を揺さぶる。しかし、ここでもまた本当に重要なのは言葉(=セリフ)の中身ではないように思う。もちろん、万菊がどのような言葉を選ぶのかによって、その受け手である喜久雄の心の動きは変わってくるだろう。尊敬する人物にかけられる言葉というのは重いものだ。けれども彼らはともに、歌舞伎という芸道に生きる者たち。真に心が震える瞬間というのは、やはり圧倒的な芸に魅せられたときだろう。実際、そういったシーンがいくつもある。

 この『国宝』の場合、彼らの芸がともなっていなければ、セリフも何もかも私たちには届かないだろう。かといって、芸の技術さえあれば伝わるというものでもない。演じ手の生命が作品の中で真に踊っていてこそ、それはスクリーンを超えて私たちの胸を打つものになる。田中の実践するオドリは、彼が出演する映画やドラマのあらゆる瞬間に見受けられる。『19番目のカルテ』の浜辺のシーンにあったのもやはりそうなのだ。

『19番目のカルテ』©︎TBSスパークル/TBS

 テレビをつければ、田中のカラダとオドリを観ることができる。『19番目のカルテ』は私たちにとって、そういう贅沢な時間を与えてくれるものだった。最終回の赤池はほとんど動くことができないでいたが、ベッドに横たわるその姿を見て、静止しているとは誰も思わなかっただろう。そこにはたしかに生命があるのだから。そしてそれは、指の先から溢れ出ていた。この次元で赤池登という役を生きられる存在は、田中泯をおいてほかにいないだろう。『国宝』から『19番目のカルテ』へ。作品のフォーマットが変わっても、彼のカラダとオドリの質は変わらない。

日曜劇場「19番目のカルテ」

富士屋カツヒトによる連載漫画『19番目のカルテ 徳重晃の問診』を原作に、坪田文が脚本を手掛けるヒューマン医療エンターテインメント。松本潤がキャリア30年目にして初となる医師役に挑む。

■配信情報
日曜劇場『19番目のカルテ』
TVer、U-NEXT、Netflixにて配信中
出演:松本潤、小芝風花、新田真剣佑、清水尋也、岡崎体育、池谷のぶえ、本多力、松井遥南、ファーストサマーウイカ、津田寛治、池田成志、生瀬勝久、木村佳乃、田中泯
原作:富士屋カツヒト『19番目のカルテ 徳重晃の問診』(ゼノンコミックス/コアミックス)
脚本:坪田文
プロデューサー:岩崎愛奈
企画:益田千愛
協力プロデューサー:相羽めぐみ
演出:青山貴洋、棚澤孝義、泉正英
編成:吉藤芽衣、髙田脩
©︎TBSスパークル/TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/19karte_tbs/
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公式TikTok:@19karte_tbs

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