『アイス・ロード:リベンジ』にみる、リーアム・ニーソンのアクション映画のマンネリズム

 『96時間』(2008年)のヒット以来、名優であると同時に“熟年アクションスター”としても認知されてきた、リーアム・ニーソン。驚くことに70歳を超えて、まだまだアクション映画の主演を継続している。

 そんなリーアム・ニーソンが主演したアクション映画の一つで、凍った湖面の道を巨大トラックで走るといった決死のドライブを描いた作品が、『アイス・ロード』(2021年)だった。このほどPrime Videoでリリースされたのは、その続編となる『アイス・ロード:リベンジ』である。

※本記事では、映画『アイス・ロード:リベンジ』のストーリーを明かしています

 とはいえ、もはやリーアム・ニーソン主演のアクション映画に、新たな驚きや可能性を見出そうとする観客はわずかとなったかもしれない。なぜなら、主演アクション作品の多くが『96時間』型を基本とする変奏のような内容だと感じられるからである。むしろ、そういったマンネリズムの安心感のなか、無心で楽しめる映画として親しまれ、スターとしての需要が生まれていると見るべきであろう。

 それは、とくに1990年代にスティーヴン・セガール、ジャン=クロード・ヴァン・ダム、ドルフ・ラングレンなどのアクションスターが、次々にアクション映画に出演していた時期に、主人公の設定を微妙に変えながら企画をまわし続けていた状況を想起させ、ある意味で懐かしくすらある作品づくりを想起させられる。

 日本で劇場公開された『アイス・ロード』(2021年)も、基本的には同様の流れを汲む映画だが、そこには新味もあった。それは、ニーソンがベテランのトラック運転手に扮し、事故の救出のための物資を運ぶため、トラックの集団が連れ立って走るといった、職業ものとしての側面が強いところ。その設定は、名作『恐怖の報酬』(1953年)を想起させた。

 どでかいトラックで広大な土地を疾走する……そこにパワー系のロマンを感じる者は少なくない。最近も、たとえばただトラックで物資を運んで報酬を得ることが主な目的のヴィデオゲームとして根強い人気を誇る『トラックシミュレーター』のシリーズが、ゲーム配信者に紹介され、注目を集めたばかりだ。

 とはいえ、結局は悪漢たちとの生死をかけたアクションが展開し、いつものリーアム・ニーソンのアクション映画ジャンルに吸収されてしまう。このファン層の期待に応えることは、魅力であると同時に枷にもなっているといえよう。

 そんな『アイス・ロード』の、まさかの続編といえる本作『アイス・ロード:リベンジ』の舞台は、ヒマラヤの道だ。イラク戦争で負傷した弟の遺灰を彼の憧れだったというエベレストに散骨するため、ベテランのトラック運転手マイク・マッキャンは、ネパールの空港に降り立った。そして、山岳ガイドの女性ダニー(ファン・ビンビン)とともに観光バスに乗り込むのである。

 しかし、そこでトラブルが発生。観光バスが謎の傭兵たちにバスジャックされるのである。その事件の裏には、山岳地帯の村のダム建設をめぐる陰謀が存在した。マイクは村の有力者の息子(サクシャム・シャルマ)を助け出し、追跡者たちに狙われながら、またしても決死のドライブを敢行するのだ。

 ここまでの内容で、いくつか疑問をおぼえる点がある。まず、弟の遺灰を撒くためにネパールに来ただけなのに、たまたまそんな事態に遭遇するのか。そして、トラックドライバーが命をかけてまで戦う動機が薄いのではないかといった部分だ。前作では、ドライバーの仕事の募集に応じて、危険な道を走るといった、彼ならではの必然性があった。

 対して本作は、弟が亡くなったことで罪悪感をおぼえているという事情により、マイクが命がけの危険へと突っ込んでいく。ここは、例えば村に滞在したときに急遽ドライバーが必要な事態になり、エキスパートとしての責任感から、やむなく危険な道を走ることになるなど、より必然的な展開を用意してほしかったところだ。

 弟の設定が微妙に変更されているところにも違和感をおぼえる。前作で、たしかに弟は亡くなっているのだが、それはトラックで物資を運ぶ任務のなかでだった。本作では、イラクのファルージャで「高速弾」を頭に受けたことが致命傷になったことが示唆される。これは戦場でのPTSDに苦しめられていたという前作の設定とは異なるように感じられる。

 本作で明らかとなる「憧れの地であるエベレストに遺灰を撒いてほしい」という、遺書に書かれたマイクへの要求も、前作の弟のイメージからすると、やや唐突に感じるし、そこまで身内の負担になるようなことを彼が書くのかという疑問を持ってしまう。本人の希望なら仕方ないが、アメリカ人がエベレストまで行って遺灰を撒くという手間は、かなりなものだろう。

 弟が大きな存在感を示した前作だっただけに、前作のファンほど、この弟の扱いには、首をかしげるところなのではないだろうか。また、本シリーズが、戦争での死や精神への影響というものを、テーマ上、どのように位置付けているのかも、いまいち判然としないところがある。

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