『19番目のカルテ』『ちはやふる』で完全な別人に 新田真剣佑が放つ“静かな強さ”
8月20日の放送で名人・綿谷新役として『ちはやふる-めぐり』(日本テレビ系)に登場し、出演前から大きな話題を呼んだ新田真剣佑。本シリーズに約7年ぶりに帰ってきた新田からは高校生の”新”と変わらない優しさが漂い、だが過去の後悔をもとに高校生へ助言をする姿からは月日の流れを感じる。
翌週の放送でも、高校生一のかるたの実力を持つとされる折江懸心(藤原大祐)へ団体戦について落ち着いた口調で説いており、先を行く者としての風格が漂っていた。
そんな新田は現在日曜劇場『19番目のカルテ』(TBS系)にもレギュラー出演し、普段は和やかな雰囲気の新とは対照的な、クールな佇まいの演技を披露している。彼が数多くの作品で支持される背景には、彼にしか描けず、かつそれぞれの役柄に共通した“静かな強さ”があるのではないだろうか。
まず新田の代表作ともいえるのが、2016年公開の映画『ちはやふる』2作と、2018年公開の『ちはやふる-結び-』だ。作中でも屈指の強さを誇りつつ、温厚で自分の感情を表にすることの少ない新田の複雑な姿は、彼にしか演じられないものだった。
穏やかな福井弁と眼鏡の奥に潜んだ美しい瞳、それとギャップのある力強い競技かるたのシーン……。まるで当たり前かのように札を取っていく新には、凪いだ海のような静けさがあり、どこか無慈悲にすら見える。けれどその内側には彼なりの葛藤や大切な人を想う気持ちが確かに存在しており、そんな新に心を動かされたのは筆者だけではないだろう。
そして、新田にとって約9年ぶりの日曜劇場出演となった『19番目のカルテ』でも、彼は強かな魅力を生み出している。冷静沈着な外科医・東郷康二郎役として出演している新田は、データに基づいて患者の命を守ろうとする、真摯な姿が特徴だ。
本作の舞台である魚虎総合病院の厳格な外科部長・東郷陸郎(池田成志)を父に持つ東郷は当初、人命を重んじてはいるが、相手の感情よりも事実を優先する機械人形のように見えた。しかし、松本潤が演じる総合診療医・徳重晃との関わりをきっかけに、徐々に内面の優しさが露わになっていく。
第3話の後半では、手術が最善だとわかりつつも声を失うかもしれないリスクを抱えなければならず、「怖い」と話す下咽頭がんのアナウンサー・堀田義和(津田健次郎)のシーンが描かれる。自分が執刀医である堀田へ手術の直前、「この術式は過去に15件経験があります」「手術の腕には、自信があります」と説得するように話す姿は、不器用ながらも相手を安心させようとする東郷の変化を鮮やかに表現していた。
また個人的には、『ちはやふる』の新と『19番目のカルテ』の東郷には心境の変化にも通じる点があるように感じられる。2人とも、氷が溶けるかのように少しずつ、自分なりの道を見つけたり、誰かを想ったりといった“強さ”を身につけているように思うのだ。
例えば新は『ちはやふる-下の句-』の前半では、かるたに背を向け、綾瀬千早(広瀬すず)と真島太一(野村周平)を拒むような振る舞いを見せた。しかし、かるたクイーン・若宮詩暢(松岡茉優)との会話や、純粋にかるたに向き合う千早たちの姿から、もう一度かるたの舞台へ戻っていく。
一方の東郷は、第4話では「自分の体は自分で管理するのが確実」とお弁当の茹で卵や蒸し鶏を黙々と食べている。しかし第5話の終盤では、徳重が「規則違反ですね」と話しながら差し出した患者からの飴を受け取り、口にしていた。
担当した患者や同僚の医師について徳重に話しかけるシーンからも、極めて合理的であり、当初は治療に関係ない雑談を遮っていた東郷が周囲へ関心を向けていく様子がわかる。『ちはやふる』で新が周囲に手を引かれて再び歩み出すように、東郷もまた、多くの人との出会いで自身の世界を広げていくのだ。
新田はこれまで、2021年公開の映画『るろうに剣心 最終章 The Final』の雪代縁や、Netflixで2023年に配信された実写ドラマシリーズ『ONE PIECE』のロロノア・ゾロなど、フィジカル面で“強い”役柄も演じてきた。だが、『ちはやふる』や『19番目のカルテ』など、激しい動きのない人物を表すときにも、その確固たる矜持が感じられる。
インタビューで彼は、「何もできなかったので、頑張って頑張って、できるようにしているだけ。できないからこそ、自信がないからこそ、人一倍努力してきました」と語っている。(※)常に歩みを止めず、現実にも役柄にも真摯に向き合い続ける新田だからこそ、内からも外からも放たれる魅力が生まれるのかもしれない。
参照
※ https://realsound.jp/movie/2025/08/post-2110621.html
富士屋カツヒトによる連載漫画『19番目のカルテ 徳重晃の問診』を原作に、坪田文が脚本を手掛けるヒューマン医療エンターテインメント。松本潤がキャリア30年目にして初となる医師役に挑む。
■放送情報
日曜劇場『19番目のカルテ』
TBS系にて、毎週日曜21:00〜21:54放送
出演:松本潤、小芝風花、新田真剣佑、清水尋也、岡崎体育、池谷のぶえ、本多力、松井遥南、ファーストサマーウイカ、津田寛治、池田成志、生瀬勝久、木村佳乃、田中泯
原作:富士屋カツヒト『19番目のカルテ 徳重晃の問診』(ゼノンコミックス/コアミックス)
脚本:坪田文
プロデューサー:岩崎愛奈
企画:益田千愛
協力プロデューサー:相羽めぐみ
演出:青山貴洋、棚澤孝義、泉正英
編成:吉藤芽衣、髙田脩
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