今田美桜×永瀬ゆずな、“2人ののぶ”が共演 『あんぱん』の“核心”を描いた第109話に

 嵩(北村匠海)のもとに、一通のファンレターが届いたのは、ほんの数週間前のことだった。差出人は小学生の中里佳保(永瀬ゆずな)。そこには、嵩が書いた詩集『愛する歌』に心を救われたという、丁寧な言葉が並んでいた。嵩はその手紙を胸に留めながらも、まさかその本人と直接会う日が訪れるとは想像していなかった。

 しかし、その日が思いのほか早くやってくる。NHK連続テレビ小説『あんぱん』第109話では、佳保が祖父の砂男(浅野和之)とともに柳井家を訪れるところから物語が始まる。のぶ(今田美桜)と嵩は笑顔で出迎えるが、佳保は一歩足を踏み入れた途端、「家があんまりにもボロだから」と辛辣な一言を放つ。詩に救われたと語った手紙の印象とは裏腹に、目の前に現れたのは口の悪い生意気な少女だった。

 さらに佳保は「サイダーないの?」と横柄な態度を取り、あんぱんを差し出されても文句ばかり。小学生らしい無邪気さと、大人びた挑発的な態度が入り混じる佳保に、2人は翻弄される。嵩が「(詩集の)どこを気に入ってくれたの?」と問いかけると、彼女は「この程度なら私にも書けると思った」と答える。しかし、唯一興味を示したのは壁に飾られた“太ったおじさん”の絵だった。これが後のアンパンマンに結びつく重要なきっかけであることを、視聴者は思わず意識せずにはいられない。

 一方で、佳保は蘭子(河合優実)と映画の話で盛り上がり、少しずつ柔らかい表情を見せ始める。その陰で、砂男はのぶと嵩に孫の境遇を語った。佳保は大好きだった父親を亡くしたばかりで、その悲しみを覆い隠すために虚勢を張っているのだと。彼女が嵩の詩集に心を寄せたのは、孤独を埋めるための必死の手がかりだった。砂男は「孫の心を動かしてくれてありがとう」と頭を下げ、嵩の言葉が果たした役割の大きさをひしひしと感じられた。

 のぶも嵩もまた、佳保と同じように幼い頃に父を亡くしている。その重なる境遇を思い返しながら、のぶは「嵩の絵や言葉に自分も救われてきた」と静かに語る。嵩の詩には喜びが描かれている一方で、そこに寄り添うように滲む悲しみがある。その陰影があるからこそ、人の心を揺さぶるのだろう。砂男は改めて「孫にも私にも生きる力をくれてありがとう」と頭を下げた。

 「てのひらのうえにあわいかなしみがこぼれる……」「その手のひらににじむ 遠い思い出」――やがて蘭子と佳保は「てのひらのうえのかなしみ」を口ずさみながら心を通わせていた。小さな声で重ねるその一節には、2人だけに分かち合える痛みとやさしさが滲んでいるようにも見えた。

 別れのとき、嵩は佳保に似顔絵を手渡すが、彼女は「似てない」と言い放つ。それでも“太ったおじさん”の絵だけは大好きだと語り、最後には「やないたかし先生、めげずに書きなよ」と背中を押すような言葉を残して笑顔で帰っていった。

 第109話は、虚勢を張る少女と、それを優しく包み込む大人たちの姿を通じて、“言葉や絵が人を救う”という物語の核心を描いた回だった。佳保の挑発的な態度の奥には深い喪失があり、その痛みと嵩やのぶの過去が重なっていく。彼女が残したひと言は、嵩にとっても新たな創作の糧となるのだろう。小さな出会いが未来を形づくる、その予感に満ちたエピソードだった。

■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、高橋文哉、眞栄田郷敦、大森元貴、戸田菜穂、戸田恵子、浅田美代子、吉田鋼太郎、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子ほか
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK

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