土村芳×尾上寛之は海路の“日常と地続きの虚構”にどう挑んだのか 舞台『旧体』を語り合う
“全能”になるとしたら……
――物語のなかの全能とは辞書みたいにあらゆるものの知識が頭に入っているということですよね。
海路:そうですね。五感で得た情報すべてを覚えているんです。
――容量の大きなコンピューターみたいな感じでしょうか。実際、将来的に人間が進化していくとそういう風になっていくのか。そうなったらいいのか。どう思いますか?
土村:単純にただ記憶力が良くなるだけだったら、俳優というお仕事をしている身としてはすごく便利だと思います。
尾上:そうですよね。セリフが覚えられますね。
土村:でもそうじゃなくて、五感――音だったり匂いだったりまで記憶してしまうというのはどうなんでしょう。
海路:寝ている間に人間は情報を整理するみたいなことを言いますよね。それこそセリフとかも一回寝て朝起きて、またやると入ると聞きますよね。
尾上:なんとなく入りますね、順番的なものは。
海路:全能だと鮮明な記憶がひたすら増えていきますからね、整理されることなく。
尾上:人間スマホみたいな? 人間パソコンみたいな? そういうふうになりたいかなあ。
3人:ハハハ
土村:都合のいいところだけほしいですよね。
海路:忘れられるものは忘れたいですね。
尾上:例えば失恋した痛みをずっと覚えているってことでしょう? うわ、嫌だわー(笑)。
土村:感情がどんどん鈍麻するっていうか。
尾上:感情をなくす方向にいくのかもしれないですね。
土村:それが進化なのか……。
――そういう問いみたいな物語なのでしょうか?
海路:そこに関しては、本当にいろんな角度から見られる作品な気がしていて。進化論的な視点から見られると思うし、夫婦のすれ違いみたいな視点もあると思うし、観に来てくださった方の刺さる角度というか、その人が見たい角度で見られたらいいなと思っています。
――こういう進化の形はいかがなものかという意見がありましたが、どんな未来の夢を見ますか?
尾上:夏の気温が15度下がればいい。
土村:ほんとですよね。すべてが自然に優しくなっていったらいいですよね。
海路:未来って難しいですね。個人的なものか、社会的なものかでも違いますよね。
土村:いまちょっと社会的な願いでしたね。
海路:個人的な未来だとーー僕は26歳になったばかりですが、これから老けていくばかりですし……。いつまでも創造のネタが尽きない未来を夢見ます。
――いまはどんどん湧いてくるのですか?
海路:いやー、そんなに湧いてくるってわけでもないです。
土村:いや、湧いています。宣伝美術の撮影の日だったと記憶しますが、私がメイクしていただいている横で海路さんがぬらりひょんの話をしていて。
海路:座敷童です。
土村:座敷童でした(笑)。その家に住んでいる人に座敷童が恋をしたらっていう話を急に思いつかれて。
海路:メイクされている横で、僭越ながらしゃべっていましたね(笑)
土村:そのときある種の全能感を感じました。
物語の中で起きていることはいま現在と地続きの話
――自慢できる能力はありますか?
尾上:新しいものに飛び込んでいくのは怖くないんです。それも一つの能力なのかなと思っています。年齢を重ねていくと、例えば映画や演劇など、観るものが限られてきて、下の世代のものを観なくなっていく。でも、たまに思いきって新しい世界に飛び込むと発見がいっぱいあって。もちろん上の世代にしかできないこともありますが、下の世代のやっていることに触れることを怖がらず楽しむことも大事だと感じます。だから今回、海路さんと芝居を作るのがすごく楽しみだし、新しいものを作りたいですね。
土村:ポジティブかネガティブかわからないですが、すぐ忘れたり、蓋をしたりするのが得意かもしれないです。例えば嫌なことがあって、それをふと思い出してあーやだやだってなることがゼロではないですが、日常生活では感情の起伏なくフラットに生きていたいタイプなので、心の平穏を保つのが少し得意かもしれないです。
海路:本当にしょうもないことしか浮かばないのですが、左耳を動かせます。
尾上:マジで? (海路の耳を見て)動いてる! 動いてる! これ、全能じゃないですか?
3人:(笑)
海路:右耳は動かせないんですよ。
尾上:すげえ!
――なんだか楽しい座組な気がします。最後にあらためて、『旧体』への意気込みをお願いします。
土村:追体験ができる空間になりそうな気がするし、もしかしたら出演者たちを心地よく感じる人もいると思います。私は海路さんの『昨日の月』(2024年)が心地よくて。海路さんが描く世界のなかで気持ち悪いような気持ちいいような空間に誘ってもらった嬉しさで、『旧体』でもそういう体験があるといいなと思います。
尾上:SFのように感じるかもしれないですが、物語の中で起きていることはいま現在と地続きの話です。肩肘張らずに観に来ていただけたらなと思いますし、この作品を観て、いま自分が思っていることや価値観が、いいか悪いかわからないけれど、揺らぐ作品だと思っているので、ぜひ劇場に体感しに来てほしいなと思います。
海路:さっきもお話したように今回は日常会話――雑談ですと言っていて。日常会話の中で価値観の違いがあったりとか、それぞれが言わないことのなかに大切にしていたりするものが込められているような作品です。設定こそフィクションだけれど、あくまで自分たちの日常と地続きであることを意識して作っていて。ご覧になるかたの生活やいま置かれている環境と重ね合わせながら観ると、面白いものになると思っています。ぜひ、劇場にいらしてください。
■公演情報
劇団papercraft 第12回公演『旧体』
KAAT神奈川芸術劇場大スタジオにて、8月29日(金)~9月3日(水)上演
作・演出:海路
出演:土村芳、尾上寛之、イトウハルヒ、佐久間麻由、村上航(猫のホテル)、櫻井健人
会場:KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ(〒231-0023 神奈川県横浜市中区山下町281)
公演スケジュール:
8月29日(金)19:00
8月30日(土)14:00/18:00
8月31日(日)13:00/17:00
9月1日(月)19:00
9月2日(火)14:00/19:00
9月3日(水)14:00
※受付開始は、開演の45分前、開場は開演の30分前
チケット料金:
前売 5,900円(税込)全席指定
当日 6,500円(税込)全席指定
チケット一般発売日:6月21日(土)10:00
チケット取り扱い:
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主催:劇団papercraft/アミューズ
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