『あんぱん』“アンパンマン”誕生への片鱗が『まんが教室』に “走れない”のぶの不安
嵩(北村匠海)が“まんがの先生”デビューをする一方で、のぶ(今田美桜)の表情はくもったまま。NHK連続テレビ小説『あんぱん』第103話は、さまざまな転機を迎える人物がいるなか、居場所と目標を見つけられないのぶの不安が感じられる回だった。
健太郎(高橋文哉)が持ってきたのは、子ども向け番組『まんが教室』の企画書。嵩に先生としての出演をオファーしにきたのだ。これは1964年から1967年に放送され、落語家・立川談志が司会、やなせたかしが漫画の指導役として出演した『まんが学校』がモデルになった番組だろう。
消極的な嵩をのぶと健太郎が説得に説得を重ね、嵩はしぶしぶ了承。やったことがないがしぶしぶ了承していく嵩の仕事のスタイルが、奇しくも次から次へ仕事を呼び寄せているのだろう。
いよいよ始まった『まんが教室』の初回放送。嵩は、緊張の面持ちでスタジオに立ち、オリジナルの絵描き歌に合わせて、筆で絵を書いていく。顔の形を含め、どこか『アンパンマン』のカバオくんを連想させる。朝田三姉妹とメイコ(原菜乃華)の娘・愛(岡本望来)と花(戸簾愛)は、テレビの前で見守る。心配そうなのぶをよそに、愛と花は大笑いで楽しんでいた。現時点で、嵩に漫画のヒット作はないとはいえ、わかりやすい絵描き歌とポップなタッチのイラストは子どもにウケるのだろう。のちに、子どもから絶大な人気を誇る『アンパンマン』を生み出す片鱗がこの頃からあったのかもしれない。新たな仕事への挑戦を見守るのぶの表情は穏やかだが、これまでののぶを考えると少し穏やかすぎる印象もある。蘭子(河合優実)はそれに気づいている様子だ。
羽多子(江口のり子)がのぶと嵩の同級生である康太(櫻井健人)を連れて東京へ。康太からの相談事とは、朝田家を使って食堂がやりたいという内容だった。あんぱんを焼いていた大きな窯もあり、食堂を開く場所としてはうってつけだろう。
康太が考えた店の名前は「たまご食堂」。たまごと言われてすぐに、嵩の頭にも康太と同じ光景が浮かんでいたことだろう。餓死寸前の戦地で、敵国の民家で殻ごと食べたゆで卵。康太は、敵味方関係なく飢えている人に食事を出すという優しさに報いたいと思い続けていたのかもしれない。「腹を空かして困っている人には、金がなくても食べさせたい」この言葉には、死ぬことなく戦地から戻ってきた康太が抱き続けた大志が詰まっていた。その言葉を聞いて、羽多子も食堂を手伝うと決心。羽多子にとっては、家族で過ごした御免与町で暮らし続けることが、ひとつの誇りなのかもしれない。
康太からのうれしい相談を聞き、朝田三姉妹と羽多子で話していても、のぶの表情はやはり明るくない。羽多子は、夫・結太郎(加瀬亮)が亡き後も、パンを焼き三姉妹を育て上げた。蘭子は自分のスキルのみで金を稼ぎ、東京で生きている。メイコは2人の娘を育てる立派な母親へ。みんな結太郎の教えの通り、自分の夢を追いかけて掴んだ。「じゃあ、私は?」のぶの頭にはそんな疑問が浮かんでいるように見える。
20代、30代とその時の仕事に目標を見出し、走り抜けてきたのぶがはじめて立ち止まり、漠然とした不安に苛まれている。ミッドライフクライシスとでも言うのだろうか。嵩が新たな扉を開き、活躍の場を広げる一方で、のぶはどのような道を歩むことになるのか。
■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、高橋文哉、眞栄田郷敦、大森元貴、戸田菜穂、戸田恵子、浅田美代子、吉田鋼太郎、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子ほか
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK