『しあわせな結婚』の中毒性はどこから来るのか “怒らない”登場人物たちが生み出す緩急

 本作の脚本を手掛ける大石静は、記者会見の席で「阿部さんでホームドラマを書きたかったんです。ただ、テレビ朝日の木曜9時という枠のイメージを考えると、ホームドラマだけでは視聴者の方々には物足りないでしょうからサスペンス要素を加え、マリッジ・サスペンスの構想が生まれました」と語っている(※1)。後から加わったサスペンスの要素は、ドラマとしての先が気になる展開に貢献しているのはもちろん、本作の別の魅力を深めることにも役立っているのだ。

 最後に、“怒り”の描写が少ない点も本作の特徴だ。ネルラと口論になった幸太郎が声を荒げる場面こそあれど、弱々しい語尾や、眉間にしわを寄せた切なげな表情からは、ネルラに信用されていなかったと考える彼の悲しみが見て取れる。ネルラを非難しつつ自分のことも責める幸太郎の姿は視聴者に、恐怖ではなく共感や哀れみを感じさせていた。

 ネルラに容疑がかかった事件の再捜査のきっかけとなった黒川も、内心こそ分からないが、怒りを表には出していない。事件によって命を落としたネルラの元婚約者・布勢夕人(玉置玲央)もネルラを死の道連れにしようとしていたが、その行動は彼の狂った愛ゆえ。他者を攻撃する意図よりも、悲壮感に満ちている。

 さらに、第1話では幸太郎へ「だから俺は弁護士が嫌いなんだよ」と厳しい言葉を発した寛も、幸太郎がネルラを守るために動くのを見て柔らかな態度へ一変していた。鈴木家と幸太郎の温泉旅行では全力でカラオケをしたり、幸太郎を幽霊のように起こしたりとお茶目な姿を多く披露しており、視聴者を和ませる憎めないお父さんとなっている。

 本作には真相が不明な事件や不可解な行動の多いネルラに関する不気味さこそ漂うが、登場する人物はみな、他人へ悪意を向けるのには慣れていないように見える。緊張感と安心感、コメディの要素が美しく混ざり合い、どこか愛せる側面を持った彼らが紡ぐ物語だからこそ、私たちは心を預けることができ、引き込まれるのかもしれない。

参照
※1. https://post.tv-asahi.co.jp/post-442672/

木曜ドラマ『しあわせな結婚』

大石静が脚本を手がける、夫婦の愛を問う“完全オリジナルホームドラマ”であり、令和の“マリッジ・サスペンス”。主演を務める阿部サダヲと松たか子は、10年ぶりに夫婦役を演じる。

■放送情報
木曜ドラマ『しあわせな結婚』
テレビ朝日系にて、毎週木曜21:00~21:54放送
出演:阿部サダヲ、松たか子、板垣李光人、段田安則、岡部たかし、玉置玲央、金田哲、馬場徹、辻凪子、堀内敬子、小松和重、杉野遥亮
脚本:大石静
監督:黒崎博、星野和成、楢木野礼
ゼネラルプロデューサー:中川慎子(テレビ朝日)
プロデューサー:田中真由子(テレビ朝日)、山形亮介(テレビ朝日)、森田美桜(AOI Pro.)、大古場栄一(AOI Pro.)
音楽:世武裕子
主題歌:Oasis「Don’t Look Back In Anger」(Sony Music Labels Inc.)
制作協力:AOI Pro.
制作著作:テレビ朝日
©テレビ朝日
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