『19番目のカルテ』松本潤が備える複眼の思考 共働き夫婦を通して描く“誰かと生きる”意味
「疾患と病い、その両方から人は苦しむ」
『19番目のカルテ』(TBS系)第4話では、共働き夫婦にとって切実な問題を扱った。
安城耕太(浜野謙太)は糖尿病で内科に通院中。しかし、半年たっても数値は改善しない。妻の早智(倉科カナ)が、主治医である鹿山(清水尋也)の指導が悪いと病院にクレームを入れ、総合診療科にカルテが回ってきた。安城夫妻の話を聞いた徳重(松本潤)は、鹿山と滝野(小芝風花)に夫婦それぞれの聞き取りをするように提案する。
なぜ徳重は夫婦別々に診察させたのか? また、滝野と鹿山に分担させた狙いはどこにあるのか? その理由は物語が進むにつれて明らかになる。ポイントになるのが冒頭の台詞だ。病気、疾患、病い、症状、少しずつニュアンスが異なるものの、それらが指し示すのは、健康な状態に対置される心身の状態だ。徳重が似た言葉を使い分けるのは、滝野に考えてもらいたいからだ。それは鹿山も同じである。
滝野と鹿山の医師としてのスタンスは対極的に描かれている。効率重視で、なんでもルーティン化する鹿山に対して、滝野は、一人ひとりに物語があって、患者の声に耳を傾けることが大事だと主張する。医師同士の対立と夫婦間の対立はパラレルになっていて、対話を通して、もつれあった感情の糸がほどけていく様子が、第4話の見どころになっていた。
徳重が「疾患はよく診れている」と評価する鹿山は、合理的な反面、「俺たちは夫婦のカウンセリングをしてるんじゃない」と患者を突き放す。対する滝野は、患者に寄り添おうとするが、主観面に注力するあまり、鹿山に「気持ちよくなっている」と言われてしまう。同期の二人は相手のことを考えているのだが、互いに遠慮もあって連携できない。そんなとき、徳重が絶妙なタイミングで手を差しのべる。
病気の全体像をとらえること。徳重は「患者さんを診るとき、すぐにわかることとわからないことがある」と言う。可視化は見えていないものを見つける手段だ。ただ相談に乗るのではなく、話を聞くための視点を得ることが大事で、患者だけでなく、患者と家族、彼らをとりまく環境を俯瞰して、背後にあるものを探る。それが徳重にとっての“診る”ことだ。
かくして冒頭の台詞の意味は明らかになる。「病い」は、疾患を抱えた患者と家族や周囲の環境を含む、病気の原因となるメカニズムを、心と体の両面でとらえようとするときに求められる視点といえるだろう。ミクロとマクロ、複眼の思考を教えており、そうやって心を開き、解き明かしていった先に、病いが改善しない本当の原因が横たわっていた。
ドラマ的には、浜野謙太と倉科カナが演じる夫婦のいさかいと、互いの胸の内をさらけ出す衝突が山場になっていた。経験の厚みを感じさせる芝居の応酬は見ごたえがあった。「好きな人を自分のせいで悲しませたくない」夫と、「私の人生にはもうあなたがいる」と打ち明ける妻の描写は愛の物語としか言いようがないが、それを言い出せずに、すれ違ってしまうのもまた夫婦というものかもしれない。
丁寧な感情の積み重ねを経たからこそ、次のような台詞も胸に響く。徳重は「誰かと生きるから人はすれ違う。わずらわしさも増える。けれど、誰かが隣にいてくれるからこそ感じるぬくもりもある。それがほんのわずかな温かさだとしても」と語る。これをナチュラルに言える松本潤にうならされつつ、上質な短編小説のような読後感に包まれるエピソードの小品だった。
富士屋カツヒトによる連載漫画『19番目のカルテ 徳重晃の問診』を原作に、坪田文が脚本を手掛けるヒューマン医療エンターテインメント。松本潤がキャリア30年目にして初となる医師役に挑む。
■放送情報
日曜劇場『19番目のカルテ』
TBS系にて、毎週日曜21:00〜21:54放送
出演:松本潤、小芝風花、新田真剣佑、清水尋也、岡崎体育、池谷のぶえ、本多力、松井遥南、ファーストサマーウイカ、津田寛治、池田成志、生瀬勝久、木村佳乃、田中泯
原作:富士屋カツヒト『19番目のカルテ 徳重晃の問診』(ゼノンコミックス/コアミックス)
脚本:坪田文
プロデューサー:岩崎愛奈
企画:益田千愛
協力プロデューサー:相羽めぐみ
演出:青山貴洋、棚澤孝義、泉正英
編成:吉藤芽衣、髙田脩
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