『べらぼう』の時代・天明はまるで現代の合わせ鏡? 蔦重が生み出し続ける“希望”

 一見すると順風満帆であるように思える蔦重の躍進だが、これまでドラマの端々に描かれてきたように、天明期の混乱と社会変動は、蔦重自身にとっても決して他人事ではなかった。否、市中の人々から差別される「吉原者」であるという出自をはじめ、浅間山の大噴火などの「逆風」を、むしろ「順風」に変えることで、彼はここまで進んできたのだった。

 目の前の「現実」を、「誰か」や「何か」のせいにするのではなく、その「現実」をあれやこれやと(ときには周囲の人々の手も借りて)さまざまな視点で見つめながら、そこになにがしかの「勝機」を見出すこと。それを「希望」と言っても差し支えないだろう。その目線は、恋川春町(岡山天音)など、自分よりも年長の絵師・戯作者たちから、山東京伝のような後輩たちへと、この時期から徐々に切り替わっているようだ。そう、もはや蔦重は、年長者たちから教えを乞うだけの存在ではなく、後進の者たちを発掘・育成する存在になりつつあるのだ。次はいよいよ歌麿(染谷将太)だろうか。

 とはいえ、最初にさらりと書いたように、折り返し地点をまわった「天明」の世は、これからますます激動の時期に突入してゆく。彼の「穿ち」の精神は、めまぐるしく変化する時代の中で、いかにして発揮されていくのだろうか。さらには、田沼意次という後ろ盾を失ったのち、蔦重をはじめとする江戸の板元・絵師・戯作者たちは、どのような行動に打って出るのだろうか。そしてそれは、どんな結末を迎えるのだろうか。

 さらには、今のところ、お互いの存在を知ることがないように思える蔦重と一橋治済(生田斗真)は、どの段階でお互いの存在を意識するのだろうか。果たしてそのとき、彼らはそれぞれの胸の内で何を思うのか。さらなる波乱の予感に満ちた、今後の展開に注目したい。

■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
NHK BSにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK

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