『鬼滅の刃』と『国宝』の対照的なヒットを解説 共通項は“日本的意匠”と細部へのこだわり
誰もが想像しなかった驚異のスタートダッシュ『鬼滅の刃』
一方、『鬼滅の刃』の方は、大ヒットが約束されていたタイトルだ。というより、こけるわけにはいかない作品というべきか。だが、そのスタートダッシュは想像を超えるものだった。初日の4日間で73億円という破格の数字は東宝やアニプレックスも予想外だったのではないか。
本作の公開初日4日間の座席シェア率は、55.8%だ(※2)。1作で全国の映画館の過半数を占める恐るべきシェア率なのだが、これでも今年の1位ではない。『名探偵コナン 隻眼の残像』は58.3%だった。73億円を予想していたら、60%を超える座席を用意してもよかったはずだ(本当にそれが可能かどうかわからないが)。実際、初日4日間は満席続出で、明らかに需要に対して劇場側のキャパシティが追いついていなかった。
このロケットスタートはひとえに、マンガもアニメも音楽も全てをひっくるめた『鬼滅の刃』というIPがここまで積み上げてきた成果という他ないだろう。この映画のために特別なプロモーションを行ったわけでもないし、むしろ「どこにこんなにファンが隠れていたのか」と思った人が多いのではないか。GEM Partners調べの「推しファンランキング」でも公開直前の6月で『薬屋のひとりごと』の後塵を拝しているくらいだ。(※3)
むしろ、こういう数値に還元されないレベルで『鬼滅の刃』は日本社会に浸透していたと考えるべきなのかもしれない。この映画の公開はある種の「祭り」のようなもので、祭り好きの日本人のDNAに訴えかけるような、そんなレベルで浸透しているのかもしれない。
実際、公開前は露出を絞っているのかなと思えるような雰囲気だったが、公開と同時に、企業コラボを含めて大量に露出され始め、映画館を超えて街中が『鬼滅の刃』に染まっている。
そして、本作もまた高い期待値に応える完成度を示したからこその大ヒットであることは間違いない。『国宝』も『鬼滅の刃』も、どちらも映画レビューサイトで高いスコアをたたき出している。
このヒットはひとえに最強IP『鬼滅の刃』のたまものだが、鑑賞者の評価も高いのが特徴だ。ファンが期待した通り、あるいは映像表現としてそれ以上のものを提示した結果だろう。
日本的意匠をグローバルな視点で作る
この2作の共通点は、どちらも日本的な意匠をモチーフにしている点だが、それでありながら、製作陣がグローバルな視点を意識していることにある。
『鬼滅の刃』はすでに世界的人気を獲得しているため、世界展開が前提となっている。実写映画はアニメほどグローバル市場で存在感を発揮できていないが、『国宝』のプロデューサー村田千恵子氏は、「国内だけで受けるものを安く、短期間で作るのではなく、ファッションで言えばオートクチュールのように、技術とお金をかけて、クオリティの高いものを作ることができれば、世界に通じる作品が生み出せるのではないかと考えていました」と語る(※4)。
海外で受けそうなネタをやろうという安易な発想ではない。自分たちのストロングポイントをとことん突き詰める姿勢をアニメから教わったと村田氏は同インタビューで語っている。作家のクリエイティブを追求することを大前提に、それが海外で排除されないためにはどうするかを考えて製作に臨んだという。
『国宝』の製作幹事会社を務めたミリアゴン・スタジオは『鬼滅の刃』を製作しているアニプレックス傘下の実写コンテンツの企画会社だ。その意味では、製作の哲学として同じものを共有している可能性はあるだろう。
この2作のヒットから学べることは、こけおどしや見かけだおしの作品がヒットする時代ではない、ということではないか。本気でクオリティを追及し、見た人に熱が乗り移るような作品に仕上げること。この2本はそこが徹底されている作品と言えるだろう。
参照
※1. https://www.gem-standard.com/columns/1200
※2. https://www.bunkatsushin.com/news/article.aspx?id=261148
※3. https://www.gem-standard.com/columns/1214
※4. https://cocotame.jp/series/111498/
■公開情報
『国宝』
全国公開中
出演:吉沢亮、横浜流星、高畑充希、寺島しのぶ、森七菜、三浦貴大、見上愛、黒川想矢、越山敬達、永瀬正敏、嶋田久作 宮澤エマ、田中泯、渡辺謙
監督:李相日
脚本:奥寺佐渡子
原作:『国宝』吉田修一著(朝日文庫/朝日新聞出版刊)
製作幹事:アニプレックス 、MYRIAGON STUDIO
制作プロダクション:クレデウス
配給:東宝
©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会
公式サイト:kokuhou-movie.com
公式X(旧Twitter):https://x.com/kokuhou_movie
公式Instagram:https://www.instagram.com/kokuhou_movie/
公式TikTok:https://www.tiktok.com/@kokuhoumovie
『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』
全国公開中
キャスト:花江夏樹(竈門炭治郎役)、鬼頭明里(竈門禰󠄀豆子役)、下野紘(我妻善逸役)、松岡禎丞(嘴平伊之助役)、上田麗奈(栗花落カナヲ役)、岡本信彦(不死川玄弥役)、櫻井孝宏(冨岡義勇役)、小西克幸(宇髄天元役)、河西健吾(時透無一郎役)、早見沙織(胡蝶しのぶ役)、花澤香菜(甘露寺蜜璃役)、鈴村健一(伊黒小芭内役)、関智一(不死川実弥役)、杉田智和(悲鳴嶼行冥役)、石田彰(猗窩座役)
原作:吾峠呼世晴(集英社ジャンプ コミックス刊)
監督:外崎春雄
キャラクターデザイン・総作画監督:松島晃
脚本制作:ufotable
サブキャラクターデザイン:佐藤美幸、梶山庸子、菊池美花
プロップデザイン:小山将治
美術監督:矢中勝、樺澤侑里
美術監修:衛藤功二
撮影監督:寺尾優一
3D監督:西脇一樹
色彩設計:大前祐子
編集:神野学
音楽:梶浦由記、椎名豪
主題歌:Aimer「太陽が昇らない世界」(SACRA MUSIC / Sony Music Labels Inc.)・LiSA「残酷な夜に輝け」 (SACRA MUSIC / Sony Music Labels Inc.)
総監督:近藤光
アニメーション制作:ufotable
配給:東宝・アニプレックス
©︎吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
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