『ウェンズデー』の魅力をおさらい ティム・バートンの美学に彩られた世界観を紐解く
人生のベスト映画をいくつか挙げるとしたら、筆者が迷わず選ぶのが、『ティム・バートンのコープスブライド』(2005年)だ。死者の世界を舞台にしながら、ロマンスとユーモア、そして孤独を愛おしく描いたあの物語に、初めて触れたときの衝撃は今も忘れられない。
そうしたゴシックな世界観を好きになった原体験をさらに辿ると、やはり学生時代に出会った『アダムス・ファミリー』(1991年)に行き着く。不気味で奇妙なのに、なぜか心惹かれるあの世界は、自分の中の“癖”としてしっかり根を張った。
だからこそ『アダムス・ファミリー』の世界観が、Netflixシリーズ『ウェンズデー』としてティム・バートンの手によってあらためて再構築されると聞いたとき、まるで長年の憧れが昇華されたような感覚を覚えた。
そして『ウェンズデー』のシーズン2が、ついに8月6日に配信開始される。シーズン1のラストから、ずっと心を掴まれたままのファンとしては、もはや待ちきれない。同じ気持ちでカレンダーをにらんでいる仲間が、全世界にきっといるはずだ。
本作の主人公は、『アダムス・ファミリー』に登場するウェンズデー・アダムス。言うなれば、“世界一皮肉屋でクールな美少女”である。物語は、彼女が通っていた高校を訳あって退学になり、両親であるゴメズとモーティシアの母校・ネヴァーモア学園に転入するところから始まる。
ネヴァーモアは、異常な才能を持つ問題児たちを受け入れる“異端の寄宿学校”。ウェンズデーは、自身の制御しきれない能力と向き合いながら、連続殺人事件と超常現象の謎に巻き込まれていく。
シーズン1では、モンスターの正体が明らかになったものの、謎の人物からの不気味なメッセージを受け取るラストで幕を閉じた。物語は、まだ終わっていない。むしろ、ここから物語は本格的に動き出す。そんな気配さえ感じさせる結末だった。
本作は、いわゆる学園青春ドラマという王道のフォーマットに、ホラーやミステリー、さらにはファンタジー要素が巧みに絡み合ったハイブリッド作品だ。たとえるなら、『ストレンジャー・シングス 未知の世界』シリーズ(2016年〜)と『ハリー・ポッター』シリーズ(2001年〜2011年)を掛け合わせて、そこにゴシックなフィルターを通したような雰囲気だろうか。
その上で、作品の随所にティム・バートンならではの美学と遊び心が息づいているのが、たまらなく魅力的なのだ。『シザーハンズ』(1990年)の古びた古城、『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』(2016年)の遊園地、そして『スリーピー・ホロウ』(1999年)の鬱蒼とした森の描写。そうしたイメージの記憶は、本作の世界観に自然と重なって見えてくる。
実際に本作には、監督がこれまで手がけてきた映画作品への目配せもふんだんに盛り込まれている。たとえば、タイラーが働く風見鶏カフェの壁には、『スリーピー・ホロウ』の首なし騎士や、『チャーリーとチョコレート工場』(2005年)のウィリー・ウォンカの帽子が金属製の風見に紛れており、思わず目を留めたくなるような遊び心が光る(※)。