Netflix映画『84m²』は日本人も共感必至? “とんでもない事態”にたどり着く韓国スリラー
2021年のソウル。ノ・ウソン(カン・ハヌル)は有り金をすべて投入し、ローンを組んで高層マンションの1室を購入する。パティ・キムが力強く歌う1969年のヒット曲「ソウル賛歌」が高らかに流れるなか、118号棟1401号室に婚約者とともに入居するウソンの未来は、バラ色そのものに見えた。
時は流れて2024年8月。婚約破棄したウソンは、購入した部屋でひとり住まい。物件価格は暴落し、金利上昇でローンの支払いに苦しむ毎日。給料だけでは間に合わず、退社後に配達のバイトもしている。電気代を節約するため室内は真っ暗だ。そのうえ上階からは毎日騒音が響く。ところが真下の1301号室の住人からは、おたくが騒音元だと責められる。ウソンはまったく身に覚えがない。
集合住宅に住んだ経験のある人なら、騒音の問題はとても身近なものだろう。この映画でウソンが住むマンションは「壁式構造」、つまり全体が壁でつながっている構造のため、真上から、あるいは隣室からだと思われる音も、実はまったく違う場所が発生元であることが多いと説明される。これと同じ現象は日本の多くの集合住宅でも起きている。そしてまた、騒音を出している本人は、それほど大きな音が響いているとは気づいていないこともしばしばだ。国を問わず共感を得られそうなこの普遍的な問題を物語の出発点にしているのが、『84m²』の第一にキャッチーな点である。
この映画ではさらに、欠陥建築の可能性にも言及される。突然の局所的地盤沈下でマンションが地下へ落下する『奈落のマイホーム』(2021年)という映画もあったが、欠陥マンションの問題は近年韓国でしばしばニュースになるところだ。『84m²』が現在の韓国の社会問題に触れている点はほかにもある。昇進に失敗したとはいえ、企業の正社員であるのにローンを支払えないウソンの状況は、韓国の若い世代にとって決して他人事ではないだろう。またあるシーンで、ウソンの母親が彼に対し、「わたしがソウルの人間じゃないからおまえに苦労をかける」という意味の発言をするのだが、この言葉の背景には、ソウルと地方との極端で深刻な格差がある。
こうした普遍的問題、あるいは韓国特有の社会問題を取り入れつつ、『84m²』はスリラーとして快調に進む。ウソンの部屋のドアに付箋を貼りまくる1301号室の住人女性は、これでもかというほどの不気味な雰囲気を醸し出し、スリラーどころかこれからホラーが始まるのではないかとさえ思わせる。それに、ときおり挿入される意味ありげなショットからすると、ウソンは何者かに監視されているらしい。そんなことにはまだ気づいていない彼は、騒音元を探して1階ずつ昇り、1501号室、1601号室、1701号室、そして最上階にあたるペントハウスの住人に出会う。興味を惹くキャラクターが次々登場し、また、階を昇るごとに疑惑と不安が積み上げられていくかのようで、これからの展開に期待が高まるシークエンスだ。