『あんぱん』勝手なのに憎めない登美子から目が離せない 松嶋菜々子だから成立した母親像
NHK連続テレビ小説『あんぱん』で、嵩(北村匠海)の重大な局面に必ず現れる神出鬼没の母・登美子。ラスボス感のあるこの個性的なキャラは、常に視聴者の話題をさらってきた。幼い嵩と千尋を置いて再婚し、追いかけてきた嵩をまるで「親戚の子」のように扱う身勝手さ。いけしゃあしゃあと戻ってきては、進学に口を出す押しの強さ。そして出征の際には、人目もはばからず「死んだらだめよ」「生きて帰ってきなさい」と涙ながらに訴える。どのシーンでも、勝手なのに憎めない、母の姿に目が離せなかった。そしてそれは、演じているのが松嶋菜々子だから、ということも大いにありそうだ。
『あんぱん』の脚本を担当する中園ミホは、NHKドラマガイド『連続テレビ小説 あんぱん Part1』のインタビューにて、「登美子は息子には立派な医者になってほしいと願ったり、その一方で息子を置いて再婚したりと、愛情深い一方、母親のエゴを感じさせる女性です」としながら、「松嶋菜々子さんが演じると、ピュアで正直な女性に見えてくる。松嶋さんをイメージすることで、安心して思い切り書くことができています」と話している。脚本家へのインスパイアにもなっている松嶋。その魅力について、改めて考えてみた。
筆者は、2000年ごろに生活情報誌の編集をしていたのだが、当時、「松嶋菜々子になりたい」という企画が大ヒットしたことを憶えている。その頃は、主婦の間でアンケートをとると、憧れの人No.1はいつも「松嶋菜々子」だった。菜々子風のレイヤードが入ったショートカットが流行り、上品さの中に凛々しさを感じるファッションを真似する人が続出した。
それもそのはず、松嶋は女性ファッション誌『ViVi』(講談社)の専属モデルを経て、1996年のNHK連続テレビ小説『ひまわり』で朝ドラのヒロインを務めると、1998年に『リング』で映画初主演、1999年には『魔女の条件』(TBS系)ほか連続ドラマのヒロインとしてヒットを連発。2000年には、最高視聴率30%を超えた『やまとなでしこ』(フジテレビ系)で主人公・神野桜子を演じ、いわゆる「視聴率の女王」に。誰もが憧れる存在になっていた。
また、松嶋の女性人気が高いのは、やはりその媚びない雰囲気によるところが大きいと感じる。前述の『やまとなでしこ』で演じたのは、「男はお金」とあっけらかんと発言し、理想の結婚のために、なりふり構わず合コンをしまくるキャビンアテンダントだ。自己中心的で言いたいことを言う、ともすれば“嫌なやつ”になりそうなキャラクターなのに、松嶋が演じると、真っ直ぐすぎて嫌味がなく、むしろ嘘のつけない誠実な人物に見えてくる。男性にしなだれかからない凛とした清潔感が女性たちを魅了したのだ。