『ダンダダン』ジジはなぜ邪視に選ばれたのか? 石川界人の緩急自在の演技力が光る

 邪視は、かつて火山鎮静のために生贄とされた少年の怨念が生み出した怪異だ。その外見は不気味でありながらも、子供らしさをどこかに残しており、第14話では彼が牢屋から外の世界を眺める切ない回想シーンが挿入される。

 このギャップを演じ切ったのが田村睦心。少年役や中性的なキャラを多く演じてきた彼女は、「遊びたい」と願いながらも歪んだ力として発現してしまった邪視の哀しみと恐ろしさを、絶妙なバランスで声に乗せた。演じるにあたり、「出してあげてって思いつつ演じた」と語った彼女のコメントからも、感情のこもったアプローチがうかがえる(※1)。

 邪視はただの敵ではない。因習に縛られた人間社会が生み出した負の遺産でもあり、きっと第14話を観た方であれば同情した方も多かったはずだ。それほどまでに彼の過去は悲しく、彼の暴走には理由がある。『ダンダダン』における怪異の多くは、人間の感情や歴史と深く結びついており、その最たる例が邪視である。

 第14話で重要なモチーフとして浮かび上がったのが遊び。邪視は子供時代に“遊ぶこと”を奪われた存在であり、ジジが語りかける「遊ぼう」は、彼にとって救済にも呪いにもなる言葉だった。そしてジジは、邪視の怨念をサッカーボールのように蹴り飛ばすという“遊戯的”な戦闘スタイルへと進化する。このバトルは、単なるパワーアップ演出にとどまらず、邪視の感情をジジが引き受けたことのメタファーでもある。だが同時にそれは、ジジ自身の優しさが引き金となった悲劇でもある。人間の善意が、時に最も残酷な結果を招くという逆説がここにはある。

 相変わらず、アニメーションも素晴らしかった。ジジが白髪に変貌するビジュアルや、怨念ボールが飛び交う戦闘シーンなど、色彩と動きが見事に融合していた。アニメオリジナルの演出も効果的に挿入されており、原作のドラマ性をより濃密に視覚化していた。ジジの変貌、邪視の目の描写、そして“感情の可視化”とも言える演出は、この作品がいかにキャラクターの内面をアニメーションで語ることに長けているかを示している。

 ジジと邪視。怪異はただの敵ではなく、人間の業と感情の産物であり、それに対する同情や共感が時にさらなる悲劇を生むという複雑な構造が、このエピソードには刻まれている。石川と田村という演技派の声優が、その多面性を極限まで引き出したからこそ、ジジと邪視の存在は視聴者の心に深く刻まれたことだろう。第14話「邪視」は、単なるバトル回ではない。人間の内面、倫理、そして感情の複雑さを浮き彫りにした、まさに魂を揺さぶるエピソードだった。

参照
※ https://anime-dandadan.com/news/1532/

■放送・配信情報
TVアニメ『ダンダダン』
第1期:各配信サイトにて全話順次配信中
第2期:MBS/TBS系スーパーアニメイズム TURBO枠にて、毎週木曜0:26〜全国同時放送
キャスト:若山詩音(モモ/綾瀬桃)、花江夏樹(オカルン/高倉健)、水樹奈々(星子)、佐倉綾音(アイラ/白鳥愛羅)、石川界人(ジジ/円城寺仁)、田中真弓(ターボババア)、中井和哉(セルポ星人)、大友龍三郎(フラットウッズモンスター)、井上喜久子(アクロバティックさらさら)、関智一(ドーバーデーモン)、杉田智和(太郎)、平野文(花)、磯辺万沙子(鬼頭ナキ)、田村睦心(邪視)
原作:龍幸伸(集英社『少年ジャンプ+』連載)
監督:山代風我
シリーズ構成・脚本:瀬古浩司
音楽:牛尾憲輔
キャラクターデザイン:恩田尚之
宇宙人・妖怪デザイン:亀田祥倫
アニメーション制作:サイエンスSARU
第1期オープニングテーマ:Creepy Nuts「オトノケ」
第1期エンディングテーマ:ずっと真夜中でいいのに。「TAIDADA」
©龍幸伸/集英社・ダンダダン製作委員会
公式サイト:https://anime-dandadan.com/
公式X(旧Twitter):@anime_dandadan

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