『あまちゃん』『おかえりモネ』『半分、青い。』も 朝ドラを彩る感動の“上京”シーンの数々

 NHK連続テレビ小説『あんぱん』では、記者となったのぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)が取材のため東京へ向かった。これをきっかけに、二人は本格的に上京することになるのだろう。

 ところで、朝ドラといえば上京物語であることが多い(大阪制作の場合は、上阪のこともある)。沖縄から初恋の人を追いかけていく『ちゅらさん』(2001年度前期)、栃木から集団就職する『ひよっこ』(2017年度前期)、男性が主人公の『エール』(2020年度前期)や『らんまん』(2023年度前期)でも、主人公はそれぞれの夢を叶えるために東京へと向かう。その上京のシーンは、故郷からの決別でもあり、未来への一歩でもある。そのため、主人公や周囲の人たちの葛藤を感じる名シーンが多い。

 まず思い出すのは、『あまちゃん』(2013年度前期)だ。主人公の天野アキ(能年玲奈/現・のん)は東京育ちだが、学校でうまくいかず、母の故郷である北三陸へやってくる。祖母の夏(宮本信子)に習って海女になるが、足立ユイ(橋本愛)という友人の影響から、二人は地元のアイドルとして活躍するように。ついにスカウトされて東京でのデビューを目指すことになる。実は、事務所的にはアキよりユイの方が本命だったのだが、ユイは家庭の事情から東京に行くことができなくなり、アキは一人で向かうことになった。

のんは“最高”を更新し続けている 『あまちゃん』から『キャスター』に至るまでの進化

〈Give me my name back 生まれ変わるように 今を生きてる〉 〈ふざけんな 嘘をつくな 真実に興味はないくせ…

 かつてアイドルになるために家出した母・天野春子(小泉今日子)は、自分が挫折した夢を娘が追いかけることに複雑だったが、北三陸の駅から旅立つアキを、こう言って励ます。

「変わってないよ、アキは。昔も今も、地味で暗くて、向上心も協調性も存在感も個性も華もない、ぱっとしない子だけど。だけど、みんなに好かれたね。こっちに来て、みんなに好かれた。あんたじゃなくて、みんなが変わったんだよ。自信持ちなさい。それはね、案外すごいことなんだからね」

 アイドルの素質がほとんど何もないようでいて、実は周りを変えていくカリスマ性を秘めていたアキ。故郷を持ち、地元民と共に生きることを知ったことで、逆に東京でやっていけるようになったのかもしれない。春子の二の舞になると反対していた祖母の夏が、大漁旗を振って電車を見送るのは、朝ドラ史上最も泣ける上京シーンのひとつだ。

 同じ東北の物語である『おかえりモネ』(2021年度前期)の上京も印象的だった。気仙沼にある架空の離島・亀島出身のヒロイン・永浦百音(清原果耶)は、東日本大震災の時に島にいなかったため、妹・未知(蒔田彩珠)や幼なじみたちとは「何かがもう違った」と感じている。無力感や罪悪感から逃げるように島を出て、登米市の山でさまざまな経験をした後、気象予報士という夢を見つけて東京へ行くことを決意。一度、亀島へ戻り、これまで抱えてきた苦しい思いと、これからの決意を家族に伝えることにする。

『あんぱん』のぶは『おかえりモネ』百音に似ている? “わからない”主人公を描く意義

「サラバ 涙」  NHK連続テレビ小説『あんぱん』第13週(演出:野口雄大)のサブタイトルのようにのぶ(今田美桜)たちは涙を拭…

「自分にもできることがあるかもしれない」
「この仕事で誰かを守ることができるんなら、私は全力でやってみたい。大切なものをなくして傷つく人を、もう見たくない」

 百音が傷ついていたこと、そしてそれを乗り越えようとする強い気持ちを知った家族は、夜行バスに乗る姿を温かく見送る。母・陽子(鈴木京香)が「あなたらしく、ゆっくりでいいからね」と心配しながらも後押しする姿が切なかった。

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