『べらぼう』岡山天音の魅力が凝縮された恋川春町 皮肉屋なのにかわいさもある絶妙キャラ
NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第22回「小生、酒上不埒にて」の放送で気になるのは、岡山天音演じる戯作者・恋川春町の酔うとキレて……ではなく(それも面白くて期待してしまうが)、皮肉屋としての才能を遺憾なく発揮する切れ者ぶり。タイトルにもあるように、酒上不埒とは恋川春町の狂名だ。
第21回「蝦夷桜上野屁音」のラストでは、見事な酒癖の悪さと皮肉の効いた完璧な狂歌を披露し、その独特のセンスの良さと場の雰囲気を変える圧倒的な存在感を示した。
SNS上も「岡山天音が恋川春町を演じる理由がわかった。ハマりすぎ」「恋川春町が面白い。岡山天音の演技の引き出しすごい」など、岡山天音を絶賛するコメントで盛り上がった。
そもそも、恋川春町が感情を爆発させたその宴席というのは、横浜流星演じる蔦重こと主人公の蔦屋重三郎が歌麿(染谷将太)の名を売り込むために開いた会だった。欲がなく、誰よりもそばで一緒に仕事をしている蔦重にも「自分はこうしたい」「これがやりたい」などと、歌麿は自分から主張することがない。
新たな錦絵を出すにあたり、スポンサーとなる吉原の親父たちに絵師は北尾政演(古川雄大)とすることを条件にされたときも、蔦重から事情を聞くと歌麿は素直に納得していた。蔦重と歌麿の、そのやりとりを見ていた北尾重政(橋本淳)は、蔦重と2人になると、駆け出し絵師の絵を見れば、将来の画風が読めるが、歌麿だけは人まねをやめたときにどんな絵を描くのか全く予想がつかないと言った。今はまだ他人の画風をまねて絵を描いているが、歌麿が描きたい絵、自分らしい画風を見つけるために蔦重も熱くなる。
「これから、おまえの名をどんどん売ろう」と、蔦重は料理茶屋に戯作者や絵師、狂歌
師たちを集めて宴会を開いた。歌麿を売り出すことが目的であり、耕書堂としては狂歌師の親睦を図り、狂歌集を作りたい気持ちもあった。
控えめな歌麿は穏やかにその場になじみ、明るくノリの良い大田南畝(桐谷健太)や北尾政演らが盛り上がる中、一人で悪酔いしていた恋川春町。春町にしてみれば、自分の作品『辞闘戦新根』を元に書かれたと思われる政演の『御存商売物』が話題になり、南畝の番付でトップになったことが引っかかるらしい。
真面目で頑な、でも頭の中はいろんな感情が溢れ、言葉ひとつひとつに思いが乱れ飛ぶ。自分が些細なことでも気になり、考えすぎてしまうぶん、(本当は考えていても)何も考えていないような能天気な連中を見ると無性に腹がたつ。普段は理性的に振る舞っているが、酔うとブレーキが外れて感情が爆発してしまう。アルコールの不思議な魔力に逆らえない、岡山天音は人間らしい一コマを鮮やかに、チャーミングに演じ切った。
しかも、人のまねというか、他人の画風で商売している歌麿のための宴で、大暴れというのも皮肉屋の春町に相応しい皮肉な展開。持ち歩き用の筆記用具を取り出し、筆まで折ってしまうところも「そこまでやる!?」「そうきたか!?」と畳みかけるような勢いもあり、シュールな場面になった。