『あんぱん』嵩と健太郎に今生の別れ “最後のカレー”に込められた友情と再会の願い

 『あんぱん』(NHK総合)第9週のタイトルは「生きろ」で戦争を描く。6月3日放送の第47話では太平洋戦争が開戦し、のぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)の周辺に戦争の足音が迫った。

 歴代の諸作品で、1941年12月8日は最も多く言及された日付の一つだろう。日本が真珠湾を攻撃し、アメリカ、イギリスと交戦状態に入った。すでに日中戦争が始まっており、日本は欧州列強の植民地だったアジア・太平洋諸国に侵攻することで、国をあげての戦争に突入する。

 東京にいる嵩は製薬会社の宣伝部に就職して1年がたった。同居人の健太郎(高橋文哉)は広告会社に就職。ある日、嵩が家に帰ると、健太郎が台所で玉ねぎを切っていた。取引先から分けてもらった材料でカレーを作る健太郎。2人は貴重な麦飯のカレーを堪能する。実は健太郎が腕をふるったのは理由があった。

「今日で最後っちゃけん」

 健太郎に召集令状が届き、東京を去ることになったのだ。芸術学校の同期で嵩の下宿先に転がり込んできた健太郎は、人間みにあふれ、嵩にとって良き相談相手だった。健太郎の優しさが胸に沁みた。玉ねぎを切って泣いていたのは、本当は嵩と会えなくなるのが寂しかったのかもしれない。嵩も、苦楽を分かち合った親友との別れに言葉を詰まらせる。

 青春を謳歌した銀座の街で、健太郎を抱きしめ「生きて、また会おう」と呼びかける嵩。「ゆうべのカレー、辛かったけど美味しかった」に健太郎は涙をこらえる。生きることは食べることだ。健太郎のカレーはどんな味がしただろうか。「生きろ」は「死ぬな」であり、生きてこそカレーやあんぱんを味わうことができる。国が起こした戦争に人生を左右される庶民にとって、精いっぱいの叫びだったに違いない。

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