“団地”はなぜ良ドラマを生み出すのか 『しあわせは食べて寝て待て』などから考察
『しあわせは食べて寝て待て』(NHK総合)が最終回を迎えた。このドラマのもう一つの主人公が、舞台になった団地だ。
東京の郊外にある築45年、家賃5万円の団地は、膠原病のせいで週に4日しか働けず、経済的にけっして豊かとはいえないさとこ(桜井ユキ)を受け入れ、隣に住む大家・鈴(加賀まりこ)、鈴の家に居候する司(宮沢氷魚)らとの、ゆるやかなコミュニティの土台になっていた。
団地が舞台のドラマといえば、すぐに思い浮かぶのが、2024年に放送された『団地のふたり』(NHK BS)だ。55歳で独身の幼なじみ、ノエチこと野枝(小泉今日子)となっちゃんこと奈津子(小林聡美)の団地での生活をほのぼのと描いた作品だった。こちらのドラマも、団地がノエチとなっちゃんのふたりを中心とした、ご近所さんたちのコミュニティの基盤になっている。
団地の特徴はいろいろある。昭和40年代に建設されたものが多く(両作品が撮影された滝山団地も昭和43年に入居が開始された)、建物の老朽化が進んでいる上、入居者の高齢化が進んでいる。家賃も低く抑えられている。健康的で近代的な生活が志向されていたため、日当たりと風通しがよく、公園や緑地が併設されていることも多い。一方で、エレベーターがなかったり、壁が薄くて隣家の声が聞こえてしまうこともあったりする。住民内に自治会などのコミュニティがあるが、人によっては煩わしく感じることもあるだろう。
団地にはメリットもデメリットもある。『しあわせは食べて寝て待て』のさとこも、『団地のふたり』の野枝と奈津子も、団地のデメリットと上手く付き合いながら、メリットを生かして楽しく穏やかに暮らしていた。
両作品での団地での人々の暮らしぶりを見ながら想像したのが、落語などに登場する「長屋」だった。長屋とは、貧しい庶民向けの集合住宅の一種で、そそっかしい八っつぁんと熊さん、口うるさい大家さん、何でも知っているご隠居などが暮らしていて、お互いにおせっかいを焼いたり、助け合ったりしながら共生している場所だ。
大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK総合)にも、源内(安田顕)や新之助(井之脇海)らが暮らす場所として登場していた。イメージに近いのは、NHK連続テレビ小説『らんまん』で、万太郎(神木隆之介)や寿恵子(浜辺美波)が仲間たちと暮らしていた「十徳長屋」だろう。それぞれ独立した住居はあるのに、お互いの距離感は近い。団地は現代版の長屋と言える。
社会的に弱い立場だったり、どこか欠落を抱えていたりする人たちが、共同生活を送りながら暮らしている様子を描く作品は枚挙に暇がない。