河合優実は一体“何人”いるんだ! 『あんぱん』『今日空』で発揮される“余白”の芝居

 NHK連続テレビ小説『あんぱん』において、河合優実はのぶ(今田美桜)の妹・蘭子を演じている。蘭子は控えめで、一歩下がるTHE昭和の女性だ。河合は今24歳だが、その慎ましさと儚さのある雰囲気からは昭和の時代が確かに感じられた。

 画面の中でひっそりと佇む蘭子は口数こそ少ないものの、自然と視線が吸い寄せられていく。一見、存在を消しているようにも見えるが、ちゃんと存在感がある。この塩梅を見事に表現している彼女の演技を見るなり、改めて「凄い女優が現れたものだ」と唸った。本記事では、そんな河合の演技の魅力に迫っていく。

 蘭子は、自分を犠牲にしてもなお、周りの気持ちを優先する性格だ。ここぞという時には意思を伝えようとするが、基本的に静かで大人しい。思ったことをズバッと伝えてしまうのぶと比べると、まさに太陽と月。言葉が少ない役だからこそ、目、動き、仕草などによる繊細な演技が求められる。河合はそんな難しい役どころを、心の動きを仕草や目の動きなどで、丁寧に演じ切っている。

『あんぱん』写真提供=NHK

 蘭子は、祖父の釜次(吉田鋼太郎)が営む石屋で働く豪(細田佳央太)に密かな恋心を抱いている。豪を前にした途端、蘭子の目には光が生まれる。その目からは、戸惑いや嬉しさがこみ上げていき、表情に少しずつ「照れ」が生まれていく。その姿がいじらしくて、思わずその姿に見入ってしまう。

 第12話では、言葉で「好き」と伝えている訳ではないものの、豪が目を下げた瞬間に憂いのある表情を見せる。心配そうな目で豪を見つめながらもなお、たどたどしく指で髪を整える仕草から、画面越しに「彼が好き」という思いがひしひしと伝わってきた。

【本予告】映画『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』4月25日全国公開

 河合の演技は、言葉のない「余白」にこそ凄みを感じる。その余白は幅が深く、実に濃厚だ。その演技力を遺憾なく発揮しているのが、映画『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』である。本作において、河合は冴えない大学生活を送っている小西徹(萩原利久)に恋心を抱かれるお団子頭の不思議な大学生・桜田花を演じている。

 徹と初めて出会った瞬間、彼女は口元をわずかに歪め、どこか恥ずかしそうな様子を見せる。その照れたような笑顔が、なんとも愛らしい。筆者は河合の、八重歯をちらりと見せながら、口角の片方をきゅっと上げる笑顔が好きだ。

 本作のみならず河合は他の作品でも、時折この表情を見せることがある。その笑顔には照れや嬉しさが絶妙に混じり合い、わずかなぎこちなさも漂う。そのアンバランスさが絶妙で、その笑顔を見るなり「もっと彼女の表情を見ていたい」と感じてしまう。少し鼻にかかったような声には色気があり、つい耳を傾けたくなる。

 徹と出会ったばかりの頃は、あえてジグザクに歩く花。「徹に近づきたいけど、近づいてもいいのかな……」といった初々しさが滲み出ていて、彼女の今後をそっと見守りたくなってしまう。

『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』©2025「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」製作委員会

 ネタバレになってしまうため詳細は控えるが、『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』では、何人もの「河合」が登場する。同じ役をしているはずなのに、場面ごとに「本当に、同じ桜田花なのか?」と思ってしまうことも数知れず。ひとつの作品の中で、一体どれだけ多くの顔を見せるのだろうか。視聴を続けていくうちに、「私が今、何を考えているのか当ててごらん?」と、試されているような気分になる。河合の演技力の幅広さと、表情の数々に唸る作品だった。

 花と同じように、蘭子も作品の中で色んな表情を見せていく。控えめなようで、どこか強さもあり、その姿はグラデーションに富んでいる。徹を静かに翻弄していく花とはややタイプが異なるが、共通しているのは表情のバリエーションが多いことと、あとはどこか遠くを見つめているような……掴みどころがなく、不思議な雰囲気があるところだろうか。

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