『東京サラダボウル』松田龍平が奈緒の前だけで見せる顔が尊い さまざまな“相棒”の形
「警察学校を出て同じ卒配先になるのは、成績がいいやつと悪いやつっていうよな。どっちがどっちだ?」
先輩警察官の意地の悪い質問に、並んでいた若かりし頃の有木野(松田龍平)と織田(中村蒼)のうち、織田が手を挙げて元気よく答える。
「自分が悪い方だと思います!」
『東京サラダボウル』(NHK総合)第8話は、そんな初々しい場面からスタートし、過去と現在を行き来しながら有木野の過去が丁寧に明らかになっていった。
阿川(三上博史)について「あいつのことは信じないでください」と言われ、4年前に上麻布署内で起きた誤訳事件について知り、真実を知りたいと考えていた鴻田(奈緒)は、柏傑(朝井大智)から、伊村(安藤玉恵)という弁護士に会うように言われる。伊村は内密に手に入れたという誤訳事件の報告書を持っていた。その的確な検証内容と詳細な報告内容から、鴻田はこの報告書が誰によって書かれたもので、どうやって伊村の手に渡ったのか、そして、事件の犯人や週刊誌にリークしたのが本当は誰だったのかをなんとなく悟り、確証を得るために独自に捜査をしていく。
4年前の上麻布署で、織田と阿川は相棒となって仕事を進めていた。相棒を「手を取り合う人」と考えたとき、人には物理的に他の人の手を取れる手が2本ある。これを「2人の大切な人と手を取り合える」と考える人もいれば、「2人としか手を取り合えないから選択が必要」と考える人もいるだろう。さらに、1人の手を自分の両手でがっしり掴んでもいい。もちろん実際には、「相棒は2人まで」と決まっているわけではないので、“人との手の取り合い方”はたくさんある。第8話では、要所要所で、そんなさまざまな“相棒”の形が描かれた。
織田は元不良少年で荒んだ生活を送っていた頃、少年課の警察官だった豊角(三浦誠己)に人生をやり直すことを諭されたのを機に、警察官になった。織田と、彼に大きな転機を与えてくれた豊角の繋がりは強い。豊角は阿川の不審な動きを怪しみ、織田に、阿川の取り調べの様子を秘密裏に録画することを頼んだのだ。このとき、織田は一緒に仕事をしている“怪しい相棒”・阿川より、恩があって不正を嫌う豊角を“相棒”として選んだといっていい。
織田と有木野は、最初は同期というだけだったかもしれない。だが、互いに惹かれあい、その手を取り合って、何があっても離さない、離したくないと思いあう“相棒”といえる恋人となった。でも大切だからこそ、打ち明けられないこともある。織田は豊角から依頼された内偵について有木野には言っていなかった。自分を犠牲にしてでも有木野を守りたいと思っていた織田は、この問題を1人でなんとか解決しようと思っていたのだ。しかし、それは有木野が豊角に協力したことで難しくなってしまった。結果、織田は「もし、この先お前が安心して生きられる世界へ手を差し伸べてくれる誰かに出会えたら その手を振りほどかないでくれよな」という言葉を残し、有木野の手を離した。そして、織田は自死してしまい、有木野は衝撃を受け、織田を助けられなかったという後悔を背負ってしまう。