なぜウィンタースポーツを題材としたアニメは少ない? 『メダリスト』が示した“可能性”

 話題作揃いの2025年冬アニメにおいて、『メダリスト』という作品がひときわ注目を集めている。同作はフィギュアスケートの“メダリスト”になることを目指す少女とトレーナーの苦闘を描いた物語で、スポ根的な要素が大きな魅力となっている。

 もしかすると、この作品の影響でフィギュアスケートなどのウィンタースポーツを題材としたアニメをもっと観たくなったという人もいるかもしれない。しかしそこで立ちはだかるのが、圧倒的な“供給不足”という現実だ。

 誤解を招かないよう断っておくと、もちろんウィンタースポーツを扱ったアニメがまったく存在しないわけではない。たとえば2016年にMAPPAが制作した『ユーリ!!! on ICE』は、本格フィギュアスケートアニメの金字塔と言える。

TVアニメ「ユーリ!!! on ICE」PV

 また2011年から放送された『プリティーリズム』シリーズも、スポーツアニメではないかもしれないが、フィギュアスケートを題材とした作品だった。それ以前には、フィギュアスケートに打ち込む少女を主人公としたライトノベル『銀盤カレイドスコープ』もアニメ化されている。

 とはいえ業界全体を眺めてみれば、こうしたアニメの存在はあくまで例外。“ウィンタースポーツもの”がジャンルとして定着しているとは言い難い。ではなぜウィンタースポーツが題材になりにくいのかといえば、やはり制作コストの問題が大きいだろう。

 ただでさえスポーツは作画の手間が大きいためアニメで表現しにくいが、フィギュアスケートの場合は選手が全身を使ってパフォーマンスを行う上、その時間が数分間にわたって続く。手描きアニメで氷上の演技を再現するのは、至難の業だ。

 実際に2005年に放送された『銀盤カレイドスコープ』の時点ではどうしても技術的な制約があったようで、スケートシーンでは止め絵や顔のアップを使うことを余儀なくされていた。

 そこで革命的だったのは、『ユーリ!!! on ICE』のスケート描写だ。決めのシーンだけを描くのではなく、プログラム全体をしっかり再現。手描きの作画にこだわった上で、頭の先から指先に至るまでの全身の演技を生き生きとアニメーション化している。

TVアニメ「ユーリ!!! on ICE」ティザーPV第1弾

 しかも作中で登場人物たちが演じる振り付けは、元フィギュアスケート選手で振付師としても有名な宮本賢二が担当。avex picturesのYouTubeチャンネルに投稿されたコメントムービーでは、宮本がその振り付けについて、「アニメだけじゃなく本当の試合に出てもおかしくないような本格的なプログラム」を心掛けたことを語っていた(※)。

 その言葉通り、『ユーリ!!! on ICE』のスケート描写はそれ自体としてクオリティが高く、各キャラクターの個性や感情表現を昇華したものに仕上がっている印象だ。

 しかしこうしたやり方でアニメを作れる環境が整うのは、極めて稀なこと。そのことは同作が大ヒットしたにもかかわらず、フォロワーとなる作品が後に続かなかったことからも分かるだろう。すなわち迫力あるスケートシーンを表現するには手描きアニメの高度な技術が必要であり、その制作には膨大なコストがかかる……という現実が、避けがたい課題として存在した。

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