『君の忘れ方』が描いた悲しみと痛みの先にある希望 いつか来る大切な人との別れのために

 本作には昴だけでなく、様々な大切な人を失った悲しみを抱え続ける人々が登場する。昴の母・洋子(南果歩)もまたその1人だ。20数年前に夫を通り魔によって亡くしている。一見立ち直り、前に進もうとしているかのようだった洋子が見せる脆さも、彼ら彼女らをケアする牛丸がふとした瞬間に見せる、彼自身が抱える喪失の痛みも、余すことなく描き続ける本作は、悲しみも、悲しみとの向き合い方も、前を向くまでにかかる時間も、人それぞれで、千差万別なのだということを教えてくれる。

 牛丸は、グリーフケアの会に参加する人たちを見てきた経験を通して、参加者の「亡くした人の思い出し方」にゆっくりと変化が生じていくことを昴に話す。「相手との関係性って言うんですかね。まあ、もう会えないのに関係性って言うのもね、なんかあれなんですけど。なんて言うんですかね。会えないけど、でも、変わっていくんですよね」と彼は言う。本作には冒頭に言及した写真と対になる、もう1枚の重要な写真がある。それは、美紀の亡き後、池内と見えない彼の妻と、昴と昴の心の中にいる美紀が「4人で」出かけた時に撮った、昴と美紀の2ショット写真だ。当然ながらそこに美紀はいない。昴だけが誰もいない空間を見つめている。そこに美紀がいるとなんとか想像しながら、彼女の方を見つめる彼がいるだけだ。その写真が彼の美紀との思い出の詰まったフォルダに新しく追加される時、観客は、牛丸の言葉通り、失われたはずの「関係性」の続きがそこにあるということを知るのである。

 「見えなくても近くにいてね。忘れても思い出すから」と昴は美紀に話しかける。本作は、私たちが生きている以上、いつかは直面することになるであろう大切な人との別れと向き合うための映画だ。そして、今はいない誰かのことを、永遠に愛し続けたいと願う人々の、祈りのような映画なのだと思う。

■公開情報
『君の忘れ方』
新宿ピカデリーほかにて公開中
出演:坂東龍汰、西野七瀬、円井わん、小久保寿人、森優作、秋本奈緒美、津田寛治、岡田義徳、風間杜夫(友情出演)、南果歩
監督・脚本:作道雄
共同脚本:伊藤基晴
エンディング歌唱:坂本美雨
音楽:平井真美子、徳澤青弦
後援:飛騨市、高山市、飛騨市観光協会、高山市文化協会、飛騨高山観光コンベンション協会、飛騨市ロケーション促進事業、飛騨市企業版ふるさと納税
配給:ラビットハウス
2024年/日本/カラー/16:9/5.1ch/107分/G
©「君の忘れ方」製作委員会2024
公式サイト:https://kiminowasurekata.com
公式X(旧Twitter):@kimiwasu_eiga
公式Instagram:@kimiwasu_eiga

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