『ウィキッド』大ヒットで北米の映画館は数年ぶり活況 一方で“配信スルー”めぐり問題も
「11月としては歴史的な興行記録です。健全な競争と特別な体験が融合すれば、映画市場は繁栄し、観客も勝利する。映画館での体験に勝るものはありません」と、全米劇場所有者協会のマイケル・オリアリー会長は語る。
同じくこの週末、映画監督のジョン・ワッツは、ジョージ・クルーニー&ブラッド・ピット主演『ウルフズ』の続編中止報道を受けて、「続編をキャンセルしたのは私です。Appleをクリエイティブパートナーとして信頼できなくなったから」との声明を発表した。なんと皮肉な言葉の並びだろうか。
11月22日~24日の北米映画市場は、全体の興行収入が2億ドルを突破する活況となった。『ナポレオン』や『ウィッシュ』が公開された前年と比較するとプラス70%の数字で、感謝祭直前の週末としては『アナと雪の女王2』が公開された2019年の2億490万ドルに並ぶ、つまりはコロナ禍以降最高の成績だ。一時的であれ、劇場興行が「コロナ前」に戻った。
立役者となったのは、週末No.1に輝いた『ウィキッド ふたりの魔女』と、No.2の『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』である。昨年(2023年)の『バービー』と『オッペンハイマー』が、両作のタイトルをもじった「バーベンハイマー」現象で大きな相乗効果をもたらしたように、これら2作も「グリキッド」効果が期待され、やはり優れた結果を生んだのだ。
『ウィキッド ふたりの魔女』は週末興収1億1400万ドルを記録し、ブロードウェイ・ミュージカル原作映画の歴代記録を樹立。『デッドプール&ウルヴァリン』と『インサイド・ヘッド2』に続き、本年のオープニング興収記録では第3位となった。初動成績が6000万ドルを超えたのも『ビートルジュース ビートルジュース』の9月4日~6日以来およそ3カ月ぶりだから、北米の映画館にとってこの秋がいかに厳しいものだったかがよくわかる。
原作舞台は『オズの魔法使い』を原案とする小説『オズの魔法記』をミュージカル化したもの。本作は2部作の前編で、舞台の第1幕をさらに掘り下げ、上映時間2時間40分という長尺となった。さらに「ミュージカル映画はヒットしない」という近年のジンクスさえ乗り越えられたのは、女性客が興行を主導し、ファミリー層を含む全年代にうまくアピールできたからだろう。
出演者はアリアナ・グランデ&シンシア・エリヴォら、監督は『イン・ザ・ハイツ』(2021年)のジョン・M・チュウ。「楽曲を削って映画一本にまとめるのではなく、名曲ありきで映画を構築したい」という製作陣の要望が通り、リスクある2部作計画が実現した。もし1作目が失敗したら2作目の劇場公開がなくなることすらありうるのだから、これはいささか危険な賭けだったはずだ。
しかし、製作・配給のユニバーサル・ピクチャーズはこの勝負に勝ち、製作費1億5000万ドル(1作目に限る)のところ、オープニング世界興収1億6418万ドルを稼ぎ出した。『レ・ミゼラブル』(2012年)を抜き、こちらもブロードウェイ・ミュージカル原作映画として歴代最高の初動成績である。
Rotten Tomatoesでは批評家90%・観客97%、出口調査に基づくCinemaScoreで「A」を獲得しており、映画としての評価もすこぶる高い。11月27日には強力なライバル『モアナと伝説の海2』が公開されるが、この勢いに乗って長期戦をしのげるのではないかとさえいわれているほどだ。日本では2025年春の公開予定。
第2位に初登場した『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』は、週末3日間で5550万ドルを記録。こちらは男性客を中心に集客し、R指定というハンデもあったが、リドリー・スコット監督作品としては『ハンニバル』(2001年)に次いで歴代2位の初動記録となった。
パラマウント・ピクチャーズは『モアナと伝説の海2』との激突を回避すべく、本作を海外市場で先行公開していたため、世界興収はすでに2億2100万ドル。製作費2億5000万ドルを回収するまでの道のりは遠いが、こちらも年末にかけての長期戦に臨む。Rotten Tomatoesでは観客71%・批評家84%、CinemaScoreでは「B」と、こちらも優れた評価を得た。
『ウィキッド』と『グラディエーターII』、そして感謝祭の大本命『モアナと伝説の海2』(チケット前売りも好調だ)のトライアングルで、次の週末はさらなる盛り上がりが起こるとみられる。前出のマイケル・オリアリー会長は、週末の結果も踏まえて、「全世代の映画ファンが映画館に行くことを楽しんでいる」と自信をにじませた。