『ライオンの隠れ家』松本Pに聞くキャスティング秘話 「柳楽さんだからこそ成立した作品」

 粒ぞろいの秋ドラマの中でも、「次週が気になって仕方がない!」という声が回を重ねるごとにあがっているドラマ『ライオンの隠れ家』(TBS系)。当初から“ヒューマンサスペンスドラマ”と銘打たれていたように、ここまでヒューマンの部分もサスペンスの部分も、どちらの魅力も両立する形で物語が展開されている。主人公は市役所に勤める心優しき青年・小森洸人と、自閉スペクトラム症の小森美路人の兄弟。そこに「ライオン」と名乗る少年がやってくることから物語が動き出していく。

 小森兄弟を演じる柳楽優弥、坂東龍汰、そしてライオンを演じる天才子役・佐藤大空を中心に、いかにして作品を作り上げているのか。松本友香プロデューサーに制作の裏側と後半戦の注目ポイントについて話を聞いた。

『ライオンの隠れ家』の原点にある『人にやさしく』

ーー洸人(柳楽優弥)、美路人(坂東龍汰)、ライオン(佐藤大空)による3人の関係性は、これまでの作品ではありそうでなかった設定で、それがオリジナル脚本というのも驚きです。どういったきっかけでこの設定が浮かんだのでしょうか?

松本友香(以下、松本):初めてプロデューサーを務めた作品が、テッペン!水ドラ!!『3人のパパ』でした。香取慎吾さんが主演を務めていた『人にやさしく』(フジテレビ系)が好きだったこともあり、子どもと大人が交わるドラマが作りたいと思って生まれた作品です。『ライオンの隠れ家』もまた3人組、かつ子どもと大人というテーマでなにかできないかと考え、“きょうだい児”と言われているような関係性の主人公、そしてその兄弟のところに、子どもがやってきたらどんな物語が生まれるだろう?と思って企画書を書きました。

ーー美路人が自閉スペクトラム症であること、ライオンが虐待を受けている可能性があることが第1話から示唆されているなど、難しいテーマにも取り組まれています。

松本:「社会問題に切り込んだドラマを作る」というテーマを掲げて企画したわけではありません。ただ、日々ニュースに触れる中で、虐げられている子どもや障害者の方がいること、多種多様な生き方を送っている人々がいることを、エンターテインメントを通して知っていただくきっかけになればとは思いました。

ーーそんな本作をヒューマンドラマとしても、サスペンスドラマとしても、真ん中で支えているのがライオン役の佐藤大空さんです。

松本:非常に重要な役柄だったので、セリフのある役を演じたことがある5歳~7歳の子役に絞って長期間にわたってオーディションを実施しました。最初は70人くらいから10人くらいに絞って、最後は4人くらいまでに。こちらからの要求に対してどんな反応や変化があるか、人と慣れたらどんなふうに距離感が変わるのか、撮影期間も長くなるので、じっくりと変化を見て検討しました。大空くんはとにかくパワフルで、オーディション部屋から飛び出て走ったり、キツネのぬいぐるみを投げ回したり(笑)。心配になるところもあったのですが、カメラを前にすると、そこに「ライオン」がいたんです。いわゆる“子役の演技”ではなく、本当に自然とそこにいる。有り余るエネルギーもライオンにピッタリでした。これまでに子どもが出てくる作品に携わってきた泉(正英)監督からも、「絶対に大空くんがいい。俺が責任を持つ」と。大空くんに決まってからは、セリフを練習してもらうというよりは、ひとつひとつの気持ちを説明して、信頼関係を築くことを大事にしました。全く物怖じしない子なので、柳楽さんの膝の上に突然乗っかったりするんです(笑)。スタッフみんなの名前も覚えていて、誰にでも別け隔てなく接しています。

ーーそして、主演の柳楽さんを中心としたキャスティングが本当に見事だと思います。

松本:キャスティングは本当に自分に頑張った!と言ってあげたいのですが(笑)、柳楽さんが主演ということで、それならやってみたいと言ってくださる方も多かったので、本当に柳楽さんだからこそ成立した作品です。柳楽さんが今までに演じられていたような個性的でハードな役柄と本作の洸人の役柄は正反対。閉塞感、何かを諦めている、少し暗い……これらのキーワードだけだとなかなか柳楽さんにはたどり着かないと思うんです。でも、だからこそ柳楽さんが演じて下さったら面白くなるのではないかと。のんさんが主演を務めた映画『さかなのこ』で、柳楽さんが、「見た目はヤンキーふうの強面、でも根は優しい」という役柄を演じていました。洸人のイメージが浮かびましたし、弟のため、家族のために生きる主人公にピッタリハマると確信が持てました。実際、撮影が始まると期待以上で、何気ない視線や間に、洸人の持つ愛が滲み出ていて、現場でも本当に圧倒されています。

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