『海に眠るダイヤモンド』は“格差社会”をどう描く? 端島の圧倒的なビジュアルから考える

 秋クールのテレビドラマが出揃ったが、一番の注目作はやはり『海に眠るダイヤモンド』(TBS系)だろう。

 日曜劇場で放送されている本作は、現代(2018年)の東京と過去(1955年)の長崎県・端島を行き来する、壮大な愛と友情と家族の物語。

 脚本は野木亜紀子、チーフ演出は塚原あゆ子、プロデューサーは新井順子。3人は2018年に『アンナチュラル』(TBS系)、2020年に『MIU404』(TBS系)という1話完結の連続ドラマを手がけたことでドラマファンから絶大な信頼を獲得しており、この2作と同じ世界観を共有する映画『ラストマイル』は現在、大ヒットしている。

 そんな3人が手がける新作ドラマ『海に眠るダイヤモンド』において、一番の見せ場となっているのが、1955年の過去パートで展開される端島の圧倒的なビジュアルだ。

 謎の婦人・いづみ(宮本信子)に連れられて端島へと向かったホストの玲央(神木隆之介)が船上で廃墟となった端島を見ている場面から、物語は過去に遡り、古郷の端島に戻ってきた鉄平(神木隆之介・一人二役)へと視点が切り替わり、大勢の人々が暮らす活気に満ちている端島の姿が現れる。

 端島は石炭採掘を中心に回っている島で、日本初の鉄筋コンクリート構造住宅が島の大半を占めていた。

 480メートル×160メートルという、JR新宿駅ほどの狭い面積に4000人以上の人が生活しており、島民の8割は鉱員とその家族。小さな島の中にありとあらゆる施設が揃っている端島は、日本社会の縮図だと言える。

 坂道が多く、建物が上へ上へと高層化しているのも端島の面白さだ。映像も高低差を活かした斬新なアングルが次々と登場するため、目が離せない。

 狭い土地に人口が密集しているため人間関係が濃密なことも的確に描かれている。驚いたのは帰郷した鉄平が父親の一平(國村隼)の部屋を訪れる場面。再会を喜び拍手する一平たちの部屋の窓から、隣の建物の部屋にいる2人の女性が拍手している姿がさりげなく映ることで島民が顔馴染みなのが伝わってくる。

 一方、人口の大半を占める炭坑夫たちは、石炭を採掘するために地下約600メートルの坑道に潜り、過酷な労働環境で命がけの仕事に挑んでいる。

 『ラストマイル』を筆頭に、野木亜紀子作品は労働環境を通して貧富の格差を繰り返し描いてきた。『海に眠るダイヤモンド』では高低差が極端な端島のビジュアルが格差社会を象徴しており、テーマと映像がきれいに合致している。

 同時に端島自体が、本土の人間から差別的な目で見られていることが、鉄平の回想を通して描かれている。過去の話を描きながらも生々しく感じるのは、現代社会とつながる格差を徹底的に描いているからだろう。

 第2話では端島には水がないため、1日に3度、生活に必要な真水が船で輸送され、島の人々に行き渡る仕組みが丁寧に描かれた。

 地方の過疎化や自然災害が続く日本において、水や電気といったインフラの問題は切実だが、仕組みが複雑なためフィクションの中で全面に打ち出されることは少ない。しかし本作では、台風の影響で船が欠航し、水の輸送ができなくなったことで島が窮地に陥る姿が、生活に密着した切実な問題として描かれていた。こういったインフラの描写の細かさを見ると、やはり本作の主人公は、端島という生活空間そのものなのだと実感する。

 この端島の映像は、どのようにして生み出されたのか?

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