野沢尚脚本『眠れる森』は90年代を象徴する傑作ミステリー 木村拓哉が放った“暗い色気”

 当時10〜20代だった筆者には、野沢のドラマは大人の世界を覗き観ているようで、同じラブストーリーを書いていても、他の作家とは全く違うハードボイルドな世界に感じた。

 『眠れる森』においては、木村拓哉が演じる直季の描写に、それが強く現れている。当時の木村拓哉は『若者のすべて』(フジテレビ系)や『ギフト』(フジテレビ系)といったドラマで、70年代に萩原健一、松田優作、沢田研二が演じたような、男が惚れる色気のある男を演じる機会が多かった。

 直季はその集大成とも言える役で、口調はぶっきらぼうで皮肉も多く、恋人の佐久間由理(本生まなみ)にも冷たい、あまり優しくない男に見える。よく言えばミステリアスなアウトローだが、悪く言うと身勝手。だが、その身勝手が暗い色気となって滲み出ており、とても魅力的だった。その意味でも、当時の木村拓哉にしか演じられない役である。

 幼なじみの中嶋敬太(ユースケ・サンタマリア)との友人関係も魅力的で、直季と敬太が事件の謎を追う場面は『傷だらけの天使』(日本テレビ系)を彷彿とさせ、70年代的な泥臭さを感じる。実那子と輝一郎の恋愛模様が1990年代のフジテレビラマが持っていたキラキラとした世界だったからこそ、直季、敬太、由理の泥臭い関係が際立っていたのだが、この3人の関係にこそ野沢尚の本質が込められていたのではないかと思う。

 考察要素満載のミステリー&ラブストーリーの枠組みの中に当時流行していた90年代的な心理主義と野沢尚が込めようとした70年代の空気が混在していることが『眠れる森』の豊かさに繋がっている。今となっては、どちらも等しく懐かしい風景である。

■配信情報
『眠れる森』
TVer、FODにて配信中
出演:中山美穂、木村拓哉、仲村トオル、ユースケ・サンタマリア、本上まなみ、原田美枝子、横山めぐみ、田山涼成、佐々木勝彦、夏八木勲、陣内孝則
脚本:野沢尚
演出:中江功、澤田鎌作
1998年放送
©フジテレビ

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