『海に眠るダイヤモンド』は“今を生きる勇気”をもたらす一作に コードネーム“いづみ”の謎

蓄積された過去の上に、今を生きているということ

 3人の女性を知るほどに、2018年を生きるいづみとはすぐには繋がらない。しかし、1955年から2018年という年月は、それだけ変化するのに十分な年月なのだと言われても納得してしまう。鉄平と玲央がそうであるように、泥臭く強かに生きる1955年の端島の人々と、はるかに豊かな時代ではありながら無気力にならざるを得ない2018年の若者たちの対比は、同じ日本とは思えないくらい変わってしまったように思える。

 “時代が違う”とは思いながらも、リナの歌う端島音頭に思わず体が動いてしまう人々と、SNSで流行りの楽曲で「踊ってみた」動画が流行する現代と、根本の部分でそう変化していないのかもしれないなんて思ったりもする。

 そんなときに胸に刺さったのが、端島に流れ着いたリナに職員クラブの町子が「あんたに何があって、どこから逃げて来たのか知らんけどさ。あたしたち、あの戦争を生き延びたとよ。そう簡単には死ねんさ!」と言い放ったセリフだ。

 現代を生きる私たちも、振り返ればさまざまな災害をはじめとした理不尽な出来事を生き延びてきた。大切なものを奪われ、築き上げたものを踏みつけられ、心に深い傷を負いながらも必死に生き、それこそ澱となっているものもたくさんある。

 ともすれば、どうしようもない大きなうねりに翻弄されたことで、自分の力では何も変えられないと絶望してしまいたくなる。けれど、日々は自動的に出来上がったのではなく、それでも立ち上がってきた人たちによって切り拓かれてきたのだ。

 終盤、いづみが玲央に「人生を変えたくないか?」と問うシーンを観て、端島を去ろうとしたリナが鉄平に「リナさん、人生を変えたくないか?」「ここから、変えたくないか?」と言われたシーンと重なった。同時に、それは私たち視聴者にも言われているようにも感じた。「あなた、人生で、本気で逆らってみたことある?」と。

 どうにもならない大きな流れに逆らって。絶対に敵わないと思われる力に抗って。そうして根っこを生きてきた人たちによって今がある。たとえ、またその努力が根こそぎ無にされるようなことが起こっても、何度でも、何度でも挑み、持てる力を振り絞ってしぶとく生きていく。このドラマは、そうした過去の上に私たちが立っているのだということを思い出させ、今を生きる勇気をくれる作品になってくれるような気がする。

■放送情報
日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』
TBS系にて、毎週日曜21:00〜21:54放送
出演:神木隆之介、斎藤工、杉咲花、池田エライザ、清水尋也、中嶋朋子、山本未來、さだまさし、國村隼、土屋太鳳、沢村一樹、宮本信子、尾美としのり、美保純、酒向芳、宮崎吐夢、内藤秀一郎、西垣匠、豆原一成(JO1)、片岡凜
脚本:野木亜紀子
演出:塚原あゆ子、福田亮介、林啓史、府川亮介
プロデュース :新井順子、松本明子
スーパーバイザー:那須田淳、岡崎吉弘
音楽:佐藤直紀
編成:中井芳彦、後藤大希
製作:TBSスパークル、TBS
制作協力:NBC長崎放送
©TBSスパークル/TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/umininemuru_diamond_tbs/
公式X(旧Twitter):@umininemuru_tbs
公式Instagram:umininemuru_tbs
公式TikTok:@umininemuru_tbs

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