『THE PENGUIN-ザ・ペンギン-』が証明した、スーパーヒーロー作品に秘められた可能性

 奇しくもHBO(日本ではU-NEXT)でははアメコミ映画製作の舞台裏を描いた風刺コメディ『ザ・フランチャイズ』も配信されている。だが、ジャンルをグリーンバックと俳優の大仰な芝居で揶揄するのはお門違いもいいところだろう。コリン・ファレルは思ってもいなかった形でキャリアハイに到達した。昨年は盟友マーティン・マクドナーと3度目のタッグを組んだ『イニシェリン島の精霊』で自身初のアカデミー賞主演男優賞にノミネート。今年はApple TV+で配信中のTVシリーズ『シュガー』で令嬢失踪事件を追う私立探偵をチャーミングに演じたかと思えば、『ザ・ペンギン』では本人とわからない特殊メイクで性格俳優の真骨頂である。映画版では描かれる余地のなかったディテールを幾つも加え、ペンギン=オズのキャラクターに深みをもたらしている。短気で人殺しも厭わない極悪人でありながらアルツハイマーの母に心を砕き、ペンギンと呼ばれる由縁となった足を引きずりながら車に道を譲る姿には、ゴッサムを生き延びてきた処世術が垣間見えるのだ。

 そして実質上のダブル主演であるソフィア役クリスティン・ミリオティとファレルの演技はいくつもの行間を生み出し、第4話を経て物語にさらなる奥行きを与えている。ミリオティはテレビシリーズ『ファーゴ』シーズン2や『ブラック・ミラー』シーズン4、映画『パーム・スプリングス』のヒロイン役で見覚えがある人も多いはず。大きな瞳は作品ごとに意味を変え、本作ではぎょろりと光る中に怒りと哀しみ、邪悪さを去来させる。彼女の本格メジャーデビュー作が『ザ・ソプラノズ』だったことも無視できない因果だろう。

 日米同時配信となる本作は、本稿執筆時点で折り返しとなる第4話までが配信中。アーカム・アサイラムを舞台とする衝撃の第4話に世界中の視聴者が戦慄した。『ザ・バットマン』は観ていなくても問題なし。『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』の後、行き先がなくなってしまったDC映画ファンはもちろんのこと、洋画不足の2024年終盤に嘆息をつく映画ファンはぜひとも骨太のクライムドラマ『ザ・ペンギン』をリアルタイムで目撃してほしい。

■配信情報
『THE PENGUINーザ・ペンギンー』
U-NEXTにて見放題独占配信中(毎週1話ずつ配信)
出演:コリン・ファレル(オズ・コブ役)、クリスティン・ミリオティ(ソフィア・ファルコーネ役)、 レンジー・フェリズ(ビクター・アギラー役)、マイケル・ケリー(ジョニー・ヴィティ役)、ショーレ・アグダシュルー(ナディア・マローニ役)、ディードル・オコンネル(フランシス・コブ役)、クランシ ー・ブラウン(サルヴァトーレ・マローニ役)、ジェームズ・マディオ (ミロシュ・グラパ役)、スコット・コーエン(ルカ・ファルコーネ役)、マイケル・ゼゲン(アルバート・ファルコーネ役)、カーメン・イジョゴ(イヴ・カーロ役)、テオ・ロッシ(Dr.ジュリアン・ラッシュ役)
製作総指揮:マット・リーヴス、ディラン・クラーク、コリン・ファレル、ビル・カッラーロ、ダニエル・ピプスキー
製作総指揮・脚本・ショーランナー:ローレン・ルフラン
製作総指揮・監督:クレイグ・ゾベル
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