ジョージ・クルーニーとブラッド・ピットが画面を支配 映画館で観たかった『ウルフズ』

 本作はアメリカ、日本などで劇場公開される予定だったが、急遽Apple TV+での配信作品へと切り替えられた(アメリカの一部劇場では限定公開された)。だが本作の映像美を見ると、劇場で観られなかったことを残念に思う観客は多いだろう。劇場への配給における企業間のトラブルの可能性も考えられるが、価値の高い作品だからこそApple TV+は、本作を基本的に独占配信作品とし、加入者増加へと繋げる道を選んだとも想像できる。

 映画ファンにとって、配信作品になったことで残念なのは、映像美だけではない。俳優としてのクルーニーとピットは、前述したように長年の間スターとして知られ、いまだ強いカリスマ性を発揮している、映画界のアイコンでもある。そんな二人が同時に画面に登場するだけでも、強い緊張感が生まれることとなるが、ジョン・ワッツ監督が自ら書き上げたシンプルな脚本は、ストーリーに俳優を従属させるのでなく、逆に二大スターの魅力を引き立てる枠組みを用意することを優先したことで、そんな一つの“イベント”を強く強調している。すでに本作の続編の製作が決定しているという状況は、このようなコンセプトとしての強さが作品にあるからだろう。

 強力なスターを前面に出して画面を支配する手法というのは、古典的なハリウッド映画におけるスタンダードなスタイルであり、「いかにも映画らしく見える映画」だといえる。この種のケレン味は、ナチュラルなかたちのさりげない映像を目指す流れからは逆行したものだ。例えば、スター俳優が“スター然”として登場しないからこそ、よりカッコよく見えるという価値観が、よりモダンな演出方針とされてきたということである。もし、古い年代のハリウッドの作品群に馴染みがなければ、本作こそが、かつて主流だった価値観で撮られた作品だということを意識しながら、楽しんでほしいと思う。

 ジョン・ワッツ監督は、マーベル・スタジオの『ファンタスティック・フォー』映画を降板し、本作の製作を開始したことが、かねてより報じられている。青春映画の文脈で撮られた『スパイダーマン』シリーズで成功を収めたワッツ監督だが、当時まさに流行のさなかにあったヒーロー映画から離脱し、「オールドスクール」といえる本作を手がけたというのは、興味深い点だ。この路線の変更は、映画監督としての幅を広げようとする試みであることはもちろんだ。しかし同時に、ワッツ監督は、この古くから続く映画の魅力へと回帰することが、むしろ次なる映画の流行の流れに沿ったものだということに、鋭い感覚で気づいたということなのかもしれない。実際、本作は多くの観客に支持されているのだ。

 本作『ウルフズ』が、いまのところ日本の映画館で鑑賞できないというのは返す返すも残念だが、そうなった以上、この状況をできる限りポジティブにとらえるしかない。例えば深夜の時間帯に、薄く間接照明を灯しながら暗い室内で本作を流しつつ、バーボンをロックで楽しむといったような、鑑賞する作品のテイストに合わせた雰囲気づくりを自分でおこない、映画館ではなかなか実現できない工夫を含めてエンジョイするということだ。スター俳優の大作であり、「いかにも映画らしい映画」が劇場で鑑賞できないケースが出てきている現代において、観客にはそういった能動的な動きも必要ということなのかもしれない。

■公開情報
『ウルフズ』
Apple TV+にて配信中
出演:ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット、エイミー・ライアン、オースティン・エイブラムス、プールナ・ジャガンナターン
監督・脚本:ジョン・ワッツ
画像提供:Apple

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