『虎に翼』第2の主人公は紛れもなくよねだった 土居志央梨の俳優力が生み出した“美しさ”

 その男装や言葉遣いが口述試験の際の足かせになっていることを指摘されながらも、決してやめない。絶対に自分の信条は曲げない。そもそも日本国憲法第14条には、「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」とあるはずだ。彼女は、ただこの新憲法に従って行動しているだけだ。

 元・カフェー燈台の壁に、よねは、その日本国憲法第14条を大書した。墨がしたたるその文言は、彼女の血で書かれたように見える。「差別されない」と約束されたはずの「人種」や「性別」や「社会的身分」に邪魔をされ、夢を閉ざされた仲間たちの思いもこもっている。それならば、自分はなおさら「信条」を曲げずに弁護士にならねばならない。

 よねは誰よりも優しい。辛い子供時代を過ごしたよねは、弱い人間、虐げられた人間、傷ついた人間の心に、誰よりも敏感だ。原爆裁判の原告・ミキにも、尊属殺人の被告・美位子(石橋菜津美)にも、誰よりも寄り添ったのはよねだ。花岡(岩田剛典)が死に、自暴自棄になった轟(戸塚純貴)を救ったのもよねだ。よねと再会しなければ、轟はあのまま死んでいたかもしれないし、自分のセクシュアリティを認めることもなかった。

 轟が花岡への気持ちを認め、花岡への思いを吐露し、強がりをやめ、思い切り号泣する。そしてよねの誘いにより、ともに法律事務所を興す。このシーンはドラマ前半部の最大の名場面のひとつだ。それ以降、よねと轟のやり取りを見ることが、今作を観る際の大きな楽しみとなる。OPの「さよーならまたいつか!」の際にふたりの名前がないと、ガッカリするようになった。

 白状してしまうが、大学時代にやたらいがみ合うふたりを見て、「どうせ最終的にこのふたりがくっ付くんだろ」と思っていた。浅はかな自分自身が恥ずかしい。ふたりの関係性は、そんなわかりやすくて単純なものではなかった。ふたりの関係性は、性別を超えた、本当の意味での戦友だ。

 最終週に来て、よねの最大の見せ場が訪れた。最高裁における尊属殺人裁判の口頭弁論だ。まさかのよねの「はて?」が飛び出した(桂場さん反応)。こんな大舞台であえて「クソ」という言葉を使っても、戦友・轟がちゃんとフォローしてくれる(そして小声で応援もしてくれる)。裁判官15人を前にして、一切怯むこともない。このシーンを観て、本当にこのドラマを観続けてきて良かったと、心から思った。

『虎に翼』土居志央梨による渾身の「はて?」 よねの弁論に込められた無力な社会への嘆き

ついに最終週に突入した『虎に翼』(NHK総合)。初日の放送である第126話では、美位子(石橋菜津美)の事件を担当するよね(土居志…

 一方、主人公・寅子には、最終週にしてあの美佐江(片岡凜)の娘・美雪(片岡凜・二役)問題が降りかかっている。崔香淑/香子(ハ・ヨンス)がよく言っていた台詞「最後はいい方に流れる」を信じて、見守りたい。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『虎に翼』
総合:毎週月曜〜金曜8:00〜8:15、(再放送)毎週月曜〜金曜12:45〜13:00
BSプレミアム:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜8:15〜9:30
BS4K:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜10:15~11:30
出演:伊藤沙莉、岡田将生、土居志央梨、平岩紙、戸塚純貴、川床明日香、竹澤咲子、井上祐貴、尾碕真花、石橋菜津美、円井わん、木場勝己、矢島健一、松山ケンイチ、小林薫
作:吉田恵里香
語り:尾野真千子
音楽:森優太
主題歌:米津玄師「さよーならまたいつか!」
法律考証:村上一博
制作統括:尾崎裕和
プロデューサー:石澤かおる
取材:清永聡
演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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