『ラストマイル』が観客に突きつけるメッセージ 野木亜紀子や塚原あゆ子が託した“可能性”

 不自然死の謎を究明する組織「UDIラボ」の活躍を描いた『アンナチュラル』(TBS系)と、警視庁機動捜査隊のバディの動きを追う刑事ドラマ『MIU404』(TBS系)。この二つのシリーズを手がけた、塚原あゆ子監督と、脚本家・野木亜紀子が、またしてもタッグを組んだ新作映画『ラストマイル』は、その二つのTVドラマの世界観を「シェアード・ユニバース」として繋げながら、満島ひかり、岡田将生が演じる新たな登場人物が活躍する作品となった。

 本作『ラストマイル』の題材となるのは、「物流」。流通業界が忙しくなる「ブラックフライデー」の時期に、オンラインで購入、配送された商品が、日本各地で次々に爆発するという、奇妙な連続爆破事件が発生するというのが、物語の発端だ。爆発した荷物の発送元は、いずれも世界規模のショッピングサイト「DAILY FAST」日本支社の関東センターだった。MIU、UDIラボ、そして捜査一課の刑事たちがそれぞれに動き出すなか、「DAILY FAST」関東センターの責任者に着任した舟渡エレナ(満島ひかり)と、同じく関東センターのチームマネージャー梨本孔(岡田将生)もまた、自社の巨大倉庫から発送された商品が、なぜ爆破する事態に陥ったのかを調査し、事件の真相へと迫っていく。

 センターの責任者以外にも、本作では「DAILY FAST」日本支社の本部長(ディーン・フジオカ)や、提携する運送会社の局長(阿部サダヲ)、そして運送会社のドライバーたち(火野正平、宇野祥平ら)、「物流」にかかわる人々のドラマが描かれていく。本作のタイトル「ラストマイル」とは、そんな物流において、注文者の手元に荷物を届ける最後の区間を表す言葉だ。

 ドラマでお馴染みのキャストが演じる、MIU、UDIラボの面々は、事件解決に向けて重要な役割を果たすことになるが、本作においては、あくまでゲストとしての扱いとなっている。本作の事件に直接的に対峙することになるのは、この物流に携わる人々と、警視庁捜査一課の刑事たち(大倉孝二、酒向芳ら)、爆発処理班(丸山智己ら)である。

 特徴的なのは、「DAILY FAST」の舟渡と梨本コンビの、からりとした関係である。倉庫に泊まり込んでいるうちに、二人は何度となく接近したり、服を着替えるところに出くわしたりなど、ラブコメ的シチュエーションを、じつは意図的に発生させてはいるのだが、そこで恋愛に発展させようとはしていない。その入り口まで描いておいて、ドアをあえて開けないという作為は、従来の定番となっていた作劇や、観客の興味を喚起させる安易な方向性への否定的な意図を感じるところだ。それは、本作があくまで「職業映画」であるという宣言でもあるだろうし、ジェンダーロール(性別の役割)からの脱却を意味する、現時点での前向きな姿勢だといえよう。

 荷物の爆発によって被害が広がるなかで、本作は物流業界の歪みをあぶり出していく。この20数年の間に、電子商取引(ネットショッピング)は、日本人の生活に深く根付くこととなった。本作に登場する企業「DAILY FAST」は、かつて「黒船」と呼ばれ、いまや日本の多くの人々が利用する外資系大手グローバル企業の実在するショッピングサイトを想起させる。この企業の参入によって、送料無料で迅速に商品が届くという、購入者にとってメリットの大きいサービスが、いまや普通のものとなり、物流の常識は大きく変化したのだ。

 とはいえ、この物流業界の変革は、全ての人々の利益になったわけではないようだ。本作で描かれるのは、厳しい契約内容で配送を請け負っている業者や、何より「ラストマイル」を担当する、業務委託などで厳しい条件を課された配送員たちの苦境だ。もともと限界に近い状態での経営、労働を余儀なくされている配送業者やドライバーたちは、爆破騒動が起きたことで、ついに機能の麻痺に陥ってしまうのである。

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