『ばいばい、アース』を氷川竜介が紐解く 世界を読解する楽しみ、終了後も残る余韻

 WOWOWオリジナルアニメ『ばいばい、アース』は、圧巻の設定情報の処理で感心する工夫の多い意欲作だ。最終回に向けて、その類例のない魅力を再点検してみたい。

 キャッチコピーは「少女×大剣が奏でる本格ファンタジー」とある。登場人物の大半は人に動物や魚類の特性(獣の耳や魚鱗など)を加味した姿だ。剣と剣のバトルなど、場面写真やPVを見ただけでは、類型的に見えてしまう可能性もある。だが、流行中のゲーム風世界観の「異世界転生もの」とはかなり違う、ファンタジーの本格的な趣向に満ちていて、その奥深さが実に味わい深いのである。

 「物語本来の役割と味わい」を重視した点では、同じWOWOWオリジナルアニメ『火狩りの王』と共通する感触もある。ダイレクトに描かれない部分に対し、「これはどういうことなのかな?」と積極的に読み解いていくうちに、熟考のうえで厚く塗り込められた「想い」が浮かび上がってくる。では、その物語はどのようなものなのだろうか?

 主人公のラブラック=ベルは、究極の孤独感を抱える少女だ。この世界の獣人は「月歯族(ネズミ型のマウティー)」など、特徴的な器官(この場合は歯)を露出した種族に分かれ、共同社会を営んでいる。

 ベルには角などの器官や体毛、尾がないため「のっぺらぼう」と呼ばれている。われわれ人類と同じ外見なのに、同類のいない世界をひとりで生きぬいてきた。彼女は同じ種族ではなく石の卵から生まれたとされ、月瞳族(ネコ型のキャッツアイズ)の夫婦に育てられた。だが彼らに実子ができたとき、自分が決定的に違うことを思い知らされる。

 ベルはこの世界から遊離しているため、非常識な腕力や水の上を走れるほどの跳躍力を発揮できる。だが、倒した巨獣の果肉を食べることから差別を受けたりもする。この種の異質な特性は「野蛮(ビースティ)」と呼ばれ、ベルの疎外感を強くする……。

 どうやらここは「人と獣」の属性を筆頭に、多くのことが転倒した世界らしい。そうした読解と察しと、時折インサートされる「天空に見える巨大な星」の映像から、『ばいばい、アース』という独特の題名に込められた寓意が、胸に迫ってくる。

 つまりこれは、「現実世界」をある規則によって変換した壮大な「たとえ話」なのである。その構造が見えてくるにしたがい、描かれている事物に対する知的好奇心も大きくなっていく。複雑に見える設定は、主人公を無双にするために用意されたものではなく、力が強いことが疎まれるといった「逆転の仕掛け」があるからだ。

 何もかもが「われわれの知る世界」と違うかといえば、そんなことはないのも興味をそそる。獣人たちの思考方法や情感、倫理観は、ほとんど一般の人間と変わるところがない。それゆえ、ドラマにおける心理の推移は人間同士が繰り広げられるものと同等に受け止めることができる。だから、ファンタジーならではの事件が起きても、共感できることがそこには描かれているように思えてくる。

 ベルもまた、異質な者たちと暮らしていくうちに共感が高まっていく。一方でそれは心を解放していくと同時に、神の法から解放されたノマド(旅の者)となり、出自の謎に迫りたいという欲求も強化していく。こうした心理の機微とその変化を追いながら、ベルの心情のどこにフォーカスすればいいか、ヒントを発見していくのが、本作ならではの楽しみ方ではないだろうか。

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