『デッドプール&ウルヴァリン』が大ヒットを成し遂げた理由 マルチバースを最大限に利用

 ディズニーによる、2019年の20世紀フォックス買収。これによって、これまで20世紀フォックスが映画化権を有していたマーベル・コミック作品、『ファンタスティック・フォー』と『X-MEN』などの権利がマーベル・スタジオに統合されることになった。そして、2015年からディズニー傘下となっていたマーベル・スタジオの映画作品『マーベルズ』(2023年)で、ついに分かれていた作品世界のキャラクターが邂逅する場面が描かれ、ファンを沸かせることとなった。

 『X-MEN』の映画化権がディズニーのマーベル・スタジオに移行したということは、『X-MEN』世界に登場する「俺ちゃん」こと、“デッドプール”もまた、ディズニーへの移籍を果たしたということだ。そういった経緯で、ライアン・レイノルズ主演の大ヒットシリーズ『デッドプール』最新作『デッドプール&ウルヴァリン』は、完全なるマーベル・スタジオ作品として今回、製作、公開へと至ったのだ。

 近年、「ヒーロー作品疲れ」が噂され、興業的な盛り上がりが不安視されていたマーベル・スタジオ作品……。しかし本作『デッドプール&ウルヴァリン』は予想を上回る大ヒットを成し遂げることとなった。DC作品『ジョーカー』(2019年)の記録を破り、ここにきて、R指定作品として本国アメリカのオープニング興業収入記録更新を果たす快挙を成し遂げたのである。ここでは、そんな本作が大ヒットを成し遂げた理由が何なのかを、製作や過去作の事情を交えながら考察していきたい。

 「第四の壁」を破り、自身が創作物の一部であることを意識するキャラクターであるデッドプール。本作では、「俺ちゃんはディズニーに行くぞ!」と、移籍についても言及し、マーベル・スタジオ作品への移行を、彼なりの方法で高らかに宣言している。

 ヒーロー映画の常識を破る破天荒な内容の、これまでの『デッドプール』シリーズ2作と、その大ヒットを足がかりに、いまやハリウッドを代表するドル箱スターとなったレイノルズという組み合わせだけに、マーベル・スタジオが映画化権取得の際に新キャストによる仕切り直しをせず、そのまま枠組みを継続させる決断をしたというのは、当然の判断だといえるだろう。

 そして、その決断をした以上、20世紀フォックスによるマーベル映画に対するリスペクトを示すのも、また当然の姿勢だといえる。本作『デッドプール&ウルヴァリン』は、そんな価値観を基に、これまでの20世紀フォックス『X-MEN』映画への感謝と尊敬の念を表現する意味で、総決算となる内容となった。

 となれば、デッドプール以前から人気を牽引してきた、ヒュー・ジャックマン演じる“ウルヴァリン”の功績を無視することはできない。かくして、『デッドプール』シリーズ最新作というステージにおいて、ウルヴァリン再登場という趣向を用意するに至ったのだ。そしてウルヴァリンというキャラクターもまた、ヒュー・ジャックマンをスターダムへと押し上げた存在でもある。

 とはいえ、ジャックマン演じるウルヴァリンは、20世紀フォックスの『X-MEN』スピンオフ映画『ウルヴァリン』シリーズ3部作にて、すでにこの世を去っている。とくに最終作となった『LOGAN ローガン』(2017年)は、涙なしでは観られない、ヒーロー映画史上の名作として知られている。そんな最高のラストを迎えたウルヴァリンを、また引っ張り出すのは、この作品に感動した観客にとって興醒めだと感じる部分がある。

 そこで、あえて本作では、デッドプールがウルヴァリンことローガンの亡骸を冒涜するという、サイテーなギャグシーンからスタートしている。つまり、“『LOGAN ローガン』できれいに幕引きをしたウルヴァリンを復活させることは褒められたことではないことを、製作陣は理解している”ということを、ここでファンに示しているのである。このような逆説的なリスペクトは、『X-MEN』シリーズに親しんだ観客へのメッセージを発信している意味で、歴史を踏まえたハイコンテクストな表現だといえよう。

 その後、本作で活躍するウルヴァリンが登場するが、確かにヒュー・ジャックマンが演じてはいるものの、ここでは、“このウルヴァリンは、あのウルヴァリンではない”という設定で表現されている。マーベル・スタジオ作品の「マルチバース」を利用することで、シリーズの感動をできるだけ毀損しない方法を選んでいるのである。荒唐無稽で無茶苦茶な内容の本作だが、じつは裏で細心の注意が払われていることが理解できるのだ。

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