アニメスタジオのここが知りたい!

Production I.G 和田丈嗣が語る“日本アニメの現在地” 「一段上のステージに上がる時期」

 配信プラットフォームの影響でグローバルに人気が急拡大するなど日本のアニメを取り巻く状況が激変していく中、アニメスタジオを運営する者たちは今何を考え、これからどう舵を取っていくのか。それを詳しく知るためのアニメスタジオの今を追う連載企画「アニメスタジオのここが知りたい!」。

 第2回は、90年代から世界でその名を知られる存在となったProduction I.G(以下、I.G)の2代目代表で、WIT STUDIO(以下、WIT)代表も兼任する和田丈嗣氏に、同社の今後の展望と日本アニメの現在地について話を聞いた。(杉本穂高)

日本アニメはもう一段上のステップに上る時期に来た

――日本アニメのグローバルな人気の向上について、現段階でどうお考えでしょうか?

和田 :2024年の3月、ちょうど『君たちはどう生きるか』がアカデミー賞を獲ったという時期に、弊社所属のアニメーター・監督である安藤雅司さんと板津匡覧さんと一緒にアメリカに行って、メジャーなアニメーションスタジオを訪れる機会をいただきました。本当に大歓迎されて、現地スタッフの方々のリスペクトを実感したんです。『私ときどきレッサーパンダ』や『アーロと少年』の監督たちが安藤さん、板津さんに会えたことを非常に喜んでいましたし、2人はランチミーティングで200人くらいの前で話をさせてもらったりしました。アメリカのスタジオの方々に「悔しいけど、おめでとう」と言われるんです。それだけ、『君たちはどう生きるか』のアカデミー賞受賞の影響力はすごい。弊社会長の石川(光久)ともよく話すんですが、スタジオジブリがいかに日本のアニメに対する印象を変えたのかを実感しました。アカデミー賞という一つの映画の頂点が宮﨑駿監督の作品に賞を与えたことは、大きな成果でありスタートと感じました。これから我々が何を作るのかが問われていると思います。I.Gだけでなく日本のアニメ全体が、もう一段上のステージに上がる時期に来ていると感じています。

和田丈嗣

――では、I.Gがもうひとつ上のステップに上がるために、具体的にどんなことを考えているのですか?

和田:今、僕はI.GとWITの代表を務めていますので、両方のスタジオの話を交えてお話します。両社を巻き込んで作ることになる象徴的な企画のひとつが『THE ONE PIECE』です。尾田栄一郎先生は、日本のマンガをもっと世界中に届けたいという強い思いを持っており、そのために『ONE PIECE』の実写化にも挑まれました。日本のアニメをさらに世界に広めるためには、今まで触れたことのない人々にも届ける必要があります。例えば弊社制作の『ハイキュー!!』が今国内で大ヒットしていて、今までアニメに触れてこなかった新規ファンが入ってきています。そういうふうにアニメを知らない人たちに、それも世界を相手にどんどん広げていきたいという思いを尾田先生も我々も持っていて、その入口として『THE ONE PIECE』が企画されました。

――『ONE PIECE』は、原作マンガも東映アニメーションさんによるアニメも1000エピソードを超えていますし、放送初期は4:3のアナログの画角でしたからね。

和田:おっしゃる通りで、技術革新によって今のアニメを見慣れた若い人からすると、『ONE PIECE』のアニメ放送がスタートした25年前当時の映像は違うフォーマットのため見づらいと感じる人がいるかもしれません。東映アニメーションさんからも「全力でやってください、私たちも最新エピソードを引き続き頑張ります」と言ってもらえました。マンガ、アニメ、実写の3つが重なりあいながら前に進んで、『ONE PIECE』を広げていくイメージですね。

――『怪獣8号』の放送があり、『劇場版 SPY×FAMILY Code: White』が海外で上映中、『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』は国内・海外ともに上映中です。世界への拡がりという点で、こうした作品もかなり拡がっているように思います。

和田:『SPY×FAMILY』は日本の作品ですが、舞台は日本ではなく、日本独特のものが描かれているわけではありません。疑似家族という、世界的に普遍的な題材で人との絆の大切さなどを描くものです。あの作品は狙い通りに世界中の人から愛されるものになったなと思っていますし、すごく嬉しいですね。

――『SPY×FAMILY』は深夜放送ですが、内容的には深夜っぽさのない作品ですね。映画館のグッズ売り場では、お弁当箱とか塗り絵セットなどのグッズが売られているのが印象的でした。まるで『ドラえもん』のグッズ展開のようでした。

和田:そういうのにちょっと憧れていたんですよね。深夜アニメの流れとはやや違う、『名探偵コナン』とか『クレヨンしんちゃん』や『ドラえもん』のような、ある種の国民的なアニメとして楽しまれているような、家族みんなで喜ばれるものを作ろうという意識でいましたし、きちんとそういう方向で受け入れられたのが本当に嬉しかったですね。

廊下に並んだ『銀河英雄伝説』、『劇場版ハイキュー‼ ゴミ捨て場の決戦』、『怪獣8号』のポスター

――I.Gというスタジオは、『GHOST IN THE SHELL/ 攻殻機動隊』などがアメリカのビデオ市場でヒットするなど、90年代からその名を知られていた先駆的な存在です。和田さんが入社したのは2005年頃だと思いますが、この20年間、日本アニメを取り巻くグローバル市場の環境変化で実感することはありますか?

和田:石川たちが作っていた『攻殻機動隊』シリーズなどは、クリエイターに代表される感度の高い人たちが興味を持つものでしたよね。90年代にそういう作品が海外で評判になったものの、2000年代は国内向けにパッケージを販売することに注力する時期が続いていきました。僕が入社した2006年から『進撃の巨人』を制作するくらいまでは、まだ「海外市場」という言葉を使ってなかったです。そういう状況から、日本のアニメがここまで広がったのは、やはりNetflixなどの配信サイトの存在が大きいと思います。2010年代前半から2020年に向けて緩やかに広がり、次第にインフラが整い、今に至りますが、アメリカ、アジアを含めて、コア市場はある程度世界中に行き渡っている状態だと思います。それをさらに一般層にまで広げるために、より大きな展開をしたり、ローカルでイベントをやるなどを強化する必要があります。アニメは観るだけで終わらず、グッズを買ったり、イベントに参加したり、他のファンと共有することでさらに好きになるものです。そういう消費行動ができるのは、まだ日本とアジアの一部くらいなんです。2023年、アメリカのL.A.にアニメイトが出店したので、我々も見てきましたが、非常に大きなショッピングモールの中にありました。ついに視聴するだけでなくグッズを買う文化がアメリカのエンタメ産業の中心地に進出したことは、あまり話題になっていないけど、実は大きなトピックだと思うんです。

大きな収納棚には歴代作品のグッズがずらり

――ここから日本のアニメをさらにグローバルに拡げるには、日本国内のようなメディアミックスできる環境を世界に広げていくことだということですね。

和田:そうですね。現地でしっかりと根を張って商売している人たちときちんとコミュニケーションを図り、ファンの欲求を満たしてあげる状況を作れるかどうか。それが次のステップに行くための重要なファクターです。

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