『響け!ユーフォニアム』に“つながれた”あらゆる思い 京アニの継承の軌跡がここに
京都アニメーション作品を論考する際、「思いをつなぐ」という言葉が鍵となる。スタジオが節目を迎えたり、コメントを発表する際に多く用いられるこの言葉は、スタジオの理念となり、作品には言霊が宿る。そしてそれを最も体現しているのが、現在放送中の『響け!ユーフォニアム3』だ。今回は「思いをつなぐ」という視点から、今作の魅力について迫っていきたい。
『響け!ユーフォニアム』は武田綾乃の同名小説を原作としたTVアニメシリーズだ。2015年に第1期が放送開始され人気を博すと、TVアニメ以外にも劇場版が総集編・特別編を含めて5作制作された。京都アニメーションが制作した作品の中でも、人気の高いシリーズであり、この春からTVアニメ3期が放送開始されている。第3期では北宇治高校吹奏楽部に所属する黄前久美子を主人公として、全国大会金賞を目指して奮闘する部員たちの姿が描かれている。
第1期では1年生であった久美子は入部から同級生や多くの先輩と交流を深め、トラブルを解決してきた。第3期では部長となり、多くの部員を率いていく立場となった。全国大会金賞という明確な目標があるが、そこに至るために最適な道筋は何か。同じ実力なのであれば3年生や貢献度が高い部員を優先する年功序列と、激しい競争の結果、全体の演奏レベルが上がる実力主義のどちらを選択するのか、といった難しい決断が久美子を悩ませる。それまでと立場が変わったことによる違う視点からの葛藤や、様々な組織観に翻弄されながらも、吹奏楽部全体を導いていく久美子の姿を描いた点が第3期の魅力だ。
今作では過去の名場面を引用しながら、物語が展開されていく。最も象徴的なのは第1期で描かれた1年生の実力者である高坂麗奈が、3年生の努力してきた先輩である中世古香織からトランペットのソロパートを奪い取る名シーンだろう。ここでは香織が努力してきたことを知る吉川優子が「3年生だから最後の華を持たせたい」と年功序列を主張するのに対して、あくまでも目標に対して実力主義であるべきと主張する麗奈の価値観がぶつかり合い、結果として香織が実力の差を認めて辞退する。
その逆の出来事として、『劇場版 響け!ユーフォニアム〜誓いのフィナーレ〜』でオーディションが行われた際、努力をしてきた当時3年生の中川夏紀が、実力者である当時1年生の久石奏の演奏を聞き、わざとオーディションに落ちるために手を抜かれたことに激怒するシーンがある。ここでは年功序列も致し方ないとする奏に対して、相手が先輩であろうとも本気で向かってきてほしいと気持ちをぶつける夏紀の対比が第1期とは逆に描かれていた。
そして、第3期で起こる騒動の中心にいるのは部長である久美子と、同じ3年生で強豪校から転入してきた黒江真由だ。同じユーフォニアム奏者であり、学年も等しく他の部員から見ても実力は拮抗している。その中でユーフォニアムのソロパートをどちらが吹くのか、という問題が発生する。これは北宇治高校で3年間努力してきた久美子と、その文脈のない実力者である真由という第1期の麗奈と香織の対比関係を踏襲した形になっている。このように『響け!ユーフォニアム』シリーズでは、実力と年功序列のどちらを優先するかという組織論の葛藤が描かれており、それが第3期まで継承されている。
第1期の久美子たちは、1年生として上級生に対して立ち向かっていく立場だった。下の立場にある後輩が上級生に挑み、その実力を認めさせてソロの演奏を勝ち取るという構図は、まさに下剋上の面白さが物語に詰まっていた。2年生になっても、同じユーフォニアム演奏者という仲間ではあるものの、いち部員という立場であり、久美子自身は騒動の当事者ではなかった。
しかし、3年生になると今度は部長になったために、下級生の不満と非難を受ける立場となってしまう上に、久美子本人がソロパートの演奏ができるか否かという当事者になってしまう。プレイヤーに専念していた頃と違い、プレイヤーであると同時に部内のマネジメントも行うという立場の違いが、組織運営の難しさを示している。これこそがここまで紡いできた物語の「思いをつなぐ」結果として結実している。