『夜のクラゲは泳げない』は“推し”を持つ全ての人に刺さる 現代の推し活の“裏と表”

 ここ数年で一気に世間に浸透した推しという概念。『【推しの子】』や『推しが武道館にいってくれたら死ぬ』などの推しを掲げた作品のヒットも記憶に新しい。推し活は、人生を豊かにしてくれる楽しみであり、実生活での疲れを癒してくれるもの。そんな現代の推し活の“裏と表”がつめこまれているアニメが『夜のクラゲは泳げない』だ。

 本作で推し活の印象を色濃く残すのは、やはりアイドル時代の花音を推していた少女、高梨・キム・アヌーク・めい。ちなみに生涯単推しを決めた同性の推しアイドルがいる筆者は、めいの心情に痛いほど共感して、毎話これでもかと泣いている。憧れの“ののたん”になるために美容院でいつも通りの髪型にするか聞かれためいが、「いえ今日は、私の好きなものになりたいです」と答え、花音と同じ髪型になるシーンは、自分にも覚えがあった。友達でも家族でも恋人でもない。でも確かにそこにいる、大好きな推しの存在を描いた第2話「めいの推しごと」は紛れもなく神回だった。

 花音から「いつか有名になって、私の曲を書いてね!」と書かれたチェキは、めいにとって宝物であり、夢であり、希望だったのだろう。ファンの人数だけ、アイドルとの物語がある。そのひとつひとつのストーリーが、凝縮されたものがチェキなのである。めいの行動はわかる、わかる……の大渋滞で、その後につづくストーリーも毎話胸がいっぱいになってしまう。

オリジナルTVアニメ「夜のクラゲは泳げない」本PV | 4月6日放送開始

 ただし、本作が素晴らしいのは、そうした推し活の温かな描写だけでなく、闇の部分も丁寧に書いている所だ。「推しは推せるうちに推せ」という言葉があるように、いつ推しがいなくなるかはわからない。グループの解散を告げる「大切なお知らせ」やメンバーの規則違反、さらには推しが運営と揉めることだってあるだろう。そうした結果、推しが自分が追っていた何者かではなくなることはざらにある。

 覆面シンガーが花音だと特定しためいは、会うなり「解釈違い」だと今の花音を否定するような言葉をぶつける。けれど、それはアイドル時代の“ののたん”への愛ゆえの苦悩の裏返しなのだ。キラキラと輝く推しという存在はいつか絶対に終わりが来る。しかもいついなくなるかわからない、儚いものなのである。

 推し活というのは、実際のところ、こちらのメンタルも試される。好きだからこそネットの情報が気になってしまったり、もっと言えば大好きな推しが売れないことだってある。そこが描かれているのが自称銀河系最強アイドルの卵、みー子こと馬場静江と娘の亜璃恵瑠のエピソードだ。

 小さい頃は引っ込み思案で友達もできなかった亜璃恵瑠。そんな彼女の心の中に忍び寄る孤独の影に、ひとすじの光をもたらしてくれたのが母親のみー子だった。静江の溢れんばかりの愛情とアイドルならではのキュートな明るさが、亜璃恵瑠の心を少しずつ照らしていった。

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