『イップ・マン』『うる星やつら2』など人気作も! 「新宿東口映画祭2024」注目作品を紹介

 そして、今年も「技あり」といえるアニメーション作品が選定されている。上映作『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(1984年)は、宮﨑駿監督と同じく、海外で日本のアニメーション作品の魅力を広めた巨匠・押井守監督の代表作の一つだ。『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)と並ぶほどに、人気シリーズのなかで圧倒的な輝きを放つ名作だが、意外と鑑賞したことのあるアニメファンは少ないかもしれない。

 この一作は、アニメ作品が子どものためのものだという、それまで多くの人が持っていた先入観を打ち壊し、アート映画が扱うような哲学的な領域にまで踏み込むことで、同監督の『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(1995年)同様に、大人のためのアニメ作品が確立していく重要なエポックメイキングともなった。スクリーンで観ることのできる、この機会に、ぜひ目に焼きつけてほしい。

『ナイン・ソウルズ』©2003「ナイン・ソウルズ」製作委員会

 さらには、『魔界転生』(1981年)、『リング』(1998年)、『陰陽師』(2001年)という、日本映画を代表するヒット作品が選ばれたほか、それらの下の世代にあたる監督たちの充実した作品もチョイスされた。絶叫するロックミュージシャンのように映画を撮る豊田利晃監督の『ナイン・ソウルズ』(2003年)、日本のサブカルチャーと結びついた作風の大根仁監督の『SUNNY 強い気持ち・強い愛』(2018年)、ユーモア感覚とセンスに優れた沖田修一監督の『南極料理人』(2009年)と『キツツキと雨』(2011年)も、あらためて劇場鑑賞できるチャンスである。

『カツベン!』©2019「カツベン!」製作委員会

 そんな日本映画のラインナップなかで、周防正行監督の上映作『カツベン!』(2019年)が題材にしているのは、まだ映画に音声がなかった時代、映画の内容やセリフを劇場内で口述して観客に伝えていた役割、“カツベン”こと「活動弁士」である。今年も「新宿東口映画祭」では、同時開催される「第四回カツベン映画祭」を含め、そんな「活動弁士」たちが集結し、無声映画を日本公開当時のように楽しめるプログラムが並んでいる。

『鞍馬天狗(后篇)』写真提供:マツダ映画社

 映画ファンなら絶対に観ておきたい、SF映画の元祖として知られる名作『月世界旅行』(1902年)とともに2本立てで上映される『鞍馬天狗(后篇)』は、往年の剣戟スター、嵐寛寿郎の代名詞でもあるヒーロー「鞍馬天狗」の活躍を、生の演奏と弁士の生声で楽しむことができる貴重な機会だ。アメコミヒーロー映画はいまだにアメリカ娯楽大作映画の中心として撮られているが、日本産ヒーローの元祖の一つともいえる鞍馬天狗にも、再評価の機運が巡ってきてほしいものだ。

『折鶴お千』写真提供:マツダ映画社

 上映作『折鶴お千』(1935年)のチョイスも素晴らしい。ショッキングな展開と涙を誘うストーリーを得意とする大文学者・泉鏡花の小説を原作に、同じく観客の胸を突くような悲壮な演出に長けた、日本を代表する名匠・溝口健二監督という、『日本橋』(1929年)、『瀧の白糸』(1933年)に続く黄金の組み合わせでおくる本作。なかなか観られる機会が少ないが、主演女優・山田五十鈴の名演も含めて、無声映画の傑作の一つだといえる。

 昨年開業した東急歌舞伎町タワーに加え、西口でも大規模な再開発がおこなわれ、常に変化し続けている新宿の街。そんな風景の変遷を、104年も前から見届けてきた、新宿武蔵野館と、ミニシアターブームの牽引役としての歴史を持つシネマカリテ……。今回の新宿東口映画祭をきっかけに、映画とともに長きにわたる時代を刻んできた、この劇場に、ぜひ足を運んでみてほしい。そんな経験自体もまた一つの歴史として、街のなかに、そして心のなかに記憶されていくことだろう。

■公開情報
「新宿東口映画祭2024」
5月24日(金)~6月6日(木)14日間開催
会場:新宿武蔵野館(東京都新宿区新宿3-27-10 武蔵野ビル3F)、シネマカリテ( 東京都新宿区新宿3-37-12 新宿NOWAビルB1F)
後援:新宿区/公益財団法人 新宿未来創造財団/一般社団法人 新宿観光振興協会
協力:新宿東口商店街振興組合/国立映画アーカイブ
協賛:UNIQLO新宿東南口フラッグス店
公式サイト:https://filmfest.musashino-k.co.jp/
公式X(旧Twitter):@shinjuku_f_fest

【チケット情報】
●オンライン予約販売:鑑賞日の2日前の0:00より販売開始。
オンライン予約サイト:www1.musashino-ticket.jp/shinjuku/schedule/index.php
●劇場窓口:鑑賞日の2日前の開館時より販売開始。
●『カリガリ博士』『笑う男』の2作品のみ、下記のスケジュールで販売。
・劇場窓口:5月31日(金)開館時より
・オンライン予約販売:6月3日(月)24:00より
●【第四回カツベン映画祭】のチケットは5月17日(金)正午より、オンライン予約サイトならびに劇場窓口にて販売開始。
※電話でのご予約は受け付けておりません。
※チケットが完売次第、販売を終了します。
※チケットご購入後の変更、払い戻しは致しません。
※特別興行につき、株主優待券(証)株主優待割引・招待券はご使用になれません。
※【第四回カツベン映画祭】では「映画鑑賞チケット(武蔵野館、シネマカリテ共通券)」はご使用になれません。

■トークショー情報
『ユニコ 魔法の島へ』よしひろまさみち トークショー
日時:5月24日(金)19:45の回上映後
会場:シネマカリテ
登壇者:よしひろまさみち(新宿東口映画祭ナビゲーター/映画ライター)

『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』
日時:5月26日(日)10:00の回上映後
会場:シネマカリテ
登壇者:よしひろまさみち(新宿東口映画祭ナビゲーター/映画ライター)

『イップ・マン 継承』
日時:6月1日(土)17:30の回上映後
会場:新宿武蔵野館
登壇者:倉田保昭(俳優)、江戸木純(映画評論家)

『郷愁鉄路~台湾、こころの旅~』
日時:6月1日(土)14:50の回上映後
会場:新宿武蔵野館
登壇者:シャオ・ジュイジェン(簫菊貞/監督)シャオ・ジュイジェン監督 トークショー

『南極料理人』
日時: 6月3日(月)16:40の回上映前
会場: 新宿武蔵野館
登壇者: 沖田修一(監督)、ミヤザキタケル(映画アドバイザー)

『リング』
日時:6月4日(火)19:15の回上映後
会場:新宿武蔵野館
登壇者:高橋洋(脚本家、監督)、山崎圭司(映画ライター)

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