『燕は戻ってこない』稲垣吾郎が穏やかに選択を強いる “選ばされてしまった”リキと悠子

「女は簡単に自由を奪われる」

 元バレエダンサーの草桶基(稲垣吾郎)とその妻・悠子(内田有紀)の子を産む「代理母」の依頼を受けたリキ(石橋静河)。『燕は戻ってこない』(NHK総合)第2話では、両者がついに対面を果たす。リキと悠子がその席に着いたのは、果たして自由意志に基づく選択なのだろうか。

 生殖医療エージェント「プランテ」の青沼(朴璐美)から、リキは代理出産についての説明を受ける。報酬は最低でも300万。妊娠中の生活費と、無事に出産すれば、謝礼金も受け取ることができる。妊娠・出産にはトラブルがつきもので、最悪の場合、死に至る可能性も踏まえれば、安いくらいだ。だけど、安いと言えるのは、ある程度恵まれた状況にいるからかもしれない。実際、今のリキにとっては喉から手が出るほど欲しい金額だった。

 邪魔だった自転車を蹴って以来、その持ち主である住人の平岡(酒向芳)から目をつけられているリキ。警察に相談しても目に見える実害がないために取り合ってくれず、引っ越ししようにもお金がない。冷たい水をかけながら平岡の自転車を洗うリキは逃げようとして転ぶ。分が悪そうに平岡は言い放った、「勝手に転びやがって」と。そのタイミングで、リキのもとに叔母の佳子(富田靖子)が亡くなったと連絡が入る。地元は北海道。東京からの移動費を払えるだけのお金もない。

 プランテでの面接の帰り道、リキが300万を手にした未来の自分を想像する場面が印象的だった。もともと働いていた老人ホームの上司・日高(戸次重幸)と不倫の末に、「変わりたい」と地元を飛び出したリキ。彼女が憧れていたのは、演じる石橋自身がこれまで多くの作品で体現してきた、自立した女性像なのだろう。大都会でスタイリッシュな服でバリバリ働き、おしゃれなマンションに住み、素敵な男性と恋に落ちるーー。

 だが、それはドラマの中の世界と現実のごく一部であり、実際は手取り14万の給料で吹けば飛ぶようなボロアパートに住み、迷惑な住民の嫌がらせに耐える日々。最後まで自分に会いたいと言っていた叔母の葬儀にも駆けつけることができない。そのあまりに惨めな気持ちが、リキを草桶夫婦との面談に向かわせる。

 一方、悠子は悩んでいた。基が申し込んだサロゲートマザーは、代理母の子宮に人工授精で精子を注入して妊娠・出産するものであり、悠子はそこに一切関与しない。つまり生まれてくるのは血の繋がらない子供となるが、当然のことながら子育てには悠子も関わることになる。基はそこに伴う悠子の心理的葛藤はおろか、子供が生まれてから生じるであろう問題を脇に置いている節がある。なぜなら、彼にとって最重要課題は世界的バレエダンサーの息子である自分の遺伝子を残すこと。オペラ座のサラブレッド、マチュー・ガニオをこよなく愛する母・千味子(黒木瞳)の血統主義を彼も継いでいる。

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