全国の都会人よ、『悪は存在しない』のラストに震えろ 濱口竜介イズムの詰まった寓話

 東京育ちの筆者にとって、本作はどこまでも美しく、そして最初から最後まで居心地の悪さのある映画でした。都会の人間が「自然と共存」と言うときの白々しさ。渋谷や銀座の街路樹に感じるカギカッコつきの「自然」。週末に1泊2日で旅行に行って、「リフレッシュできた」と帰りしなに背を向ける山々。そういう漠然とした“後ろめたさ”に、本作のラストはグッとナイフを突きつけてきます。

 また、本作はヒューマンドラマとしても面白く、言葉少なな便利屋の男にも、東京から来た会社員の男女にも、それぞれに共感する余白を持たせています。濱口監督らしいリアリティを追求した会話劇で、「あー、こんな人自分の周りにもいるなぁ」と身近に感じさせる描写が素晴らしい。だからこそ、突き放したラストが余計に怖くなります。自然に“共感”や“共存”は存在せず、ただお互いの動きをそっと伺うことしかできないのだと言われているような感覚がしました。

 全国の都会人の皆さん、ぜひ本作を観て美しい風景に見とれながら、ちりちりと違和感に炙られる稀有な体験をしましょう。そして、本作の舞台・水挽町に似た地域に住んでいる皆さん。どうか本作を観て、私に感じたことを教えてください。

■公開情報
『悪は存在しない』
公開中
出演:大美賀均、西川玲、小坂竜士、渋谷采郁、菊池葉月、三浦博之、鳥井雄人、山村崇子、長尾卓磨、宮田佳典、田村泰二郎
監督・脚本:濱口竜介
音楽:石橋英子
企画:石橋英子、濱口竜介
製作:NEOPA / fictive
配給:Incline
配給協力:コピアポア・フィルム
2023年/106分/日本/カラー/1.66:1/5.1ch
©2023 NEOPA / Fictive
公式サイト:https://aku.incline.life/
公式X(旧Twitter):https://twitter.com/Incline_LLP

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