『アンチヒーロー』は正義と悪の二項対立をぶち壊す 長谷川博己演じる明墨の狙いは?

 明墨が後輩弁護士の赤峰柊斗(北村匠海)に「証拠の数は多ければ多いほどいい」というのは、この仕組みを指している。検察が弱い証拠を多く集めて有罪を立証しようとするのは、犯罪を直接立証する証拠がないことを示しており、証拠が多ければ多いほど、そこに反証の余地が生まれるからだ。

 有罪をなかったことにするために明墨は証拠を集めるのだが、その徹底ぶりはすさまじい。使えるものは何でも使う明墨には、手段を選ばないという言葉がそのまま当てはまる。子どもを手なずけたかと思うと、被害者の罪悪感を喚起して出廷を承諾させた。検察側の証言を覆すためにギャンブル好きの尾形(一ノ瀬ワタル)をたらしこみ、供述の信用性を否定する証拠をつかんだ。

 結果、第一発見者である尾形の証言は覆され、検察の論拠の一角は崩れることになったものの、こうした明墨の手法に違和感を抱いた人もいただろう。聴覚に障害のある尾形をだましただけでなく、子どものあいまいな記憶を積極的に利用した。緋山が殺したことを承知の上で、悪びれずに弁舌を振るう明墨を正義と真実の敵とみなすことはたやすく、むしろその方が一般的な感覚と合致する。

 ヒーローではなくヴィラン/悪役である弁護士は何を守ろうとしているのか。犯人に人権があることは理解できる。そのことと殺人犯を野放しにすることは話が違うのではないか、など疑問は無限に湧いてくる。少なくとも、勧善懲悪が特色の一つである日曜劇場に突如現れた『アンチヒーロー』が、硬直した正義と悪の構図をぶち壊す問題作であることに疑いの余地はない。

■放送情報
日曜劇場『アンチヒーロー』
TBS系にて、毎週日曜21:00〜21:54放送
出演:長谷川博己、北村匠海、堀田真由、大島優子、木村佳乃、野村萬斎
プロデューサー:飯田和孝、大形美佑葵
演出:田中健太、宮崎陽平、嶋田広野
脚本:山本奈奈、李正美、宮本勇人、福田哲平
©TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/antihero_tbs/
公式X(旧Twitter):@antihero_tbs
公式Instagram:@antihero_tbs
公式TikTok:@antihero_tbs

関連記事