『大奥』亀梨和也の表情で語る美しい演技 時代劇は俳優としての新たなフィールドに?

 江戸時代の大奥には幕府将軍の妻子と、身辺の世話をする女中たちが住んでいた。そのため、そこは女性ばかり。現在放送中の『大奥』(フジテレビ系)が女同士のドロドロとした感情と将軍をめぐっての駆け引きが中心だと思っていると、うっかり別の沼に足元を掬われることになってしまうかもしれない。華やかな着物に身を包んだ女性たちも美しいが、亀梨和也演じる将軍・家治もまた美しいのである。

 将軍と聞くと、武士のトップの人間であるから勇ましい姿が思い浮かぶかもしれない。しかし、家治は一言で表すと「優美」である。家治の時代は戦乱の世ではなく、民たちも比較的平穏な暮らしをしていた。家治は万一に備えて刀の稽古を怠っていないようだが、血気盛んな漢というわけではない。むしろ、世継ぎを産むことがやるべきことのひとつである倫子(小芝風花)やお知保(森川葵)のほうが、これを“女の戦”と捉え、堂々とした顔をしていることが多い。そのため、時折憂いを感じさせるように、目線を下げる家治の顔のほうが「美しい」と感じる時もあるのだ。

 家治は言葉数が多い方ではない。その分、その表情が多くを語ってくれる。家治は幼い頃、田沼(安田顕)に呼び出され、牢に収容されたボロボロの男が自分の本当の父だと聞かされた。しかも田沼はその男をあえて家治の前で斬ったのだ。この時、家治の近くにあった水桶の中の水が血の色に染まっていった。家治は水が少し溜まっているのを見ただけでも、それを思い出し、苦しそうに顔をしかめた。その顔だけで、田沼から受けた仕打ちがいまも家治を苦しめていることがわかる。

 逆に愛する者や、最近生まれたばかりの貞次郎のような守るべきものを見る家治の眼差しは穏やかだ。倫子は家治への恋心を自覚したばかりに、家治が自分のことをどう思っているのかが気がかりになってしまっていた。家治が倫子に会っても嬉しそうには見えないからだ。愛嬌があり、いつもコロコロと表情を変える倫子には分かりづらかったようだが、家治は自分の理想に理解を示し、いつも前向きな言葉をかけてくれる倫子のことを心強く思い、自然と愛して、信頼していた。嬉しそうな倫子の顔を見る家治の表情は、とても優しい。倫子はいつもそれに気づかず、もったいないと思うが、そういう家治を見られるのは私たち視聴者の特権ということにしたい。

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