『厨房のありす』は私たちを優しく包む 他人に迷惑をかけながら生きることに与える許し
ただ私たちは人の手を借りること=迷惑をかけることと思っている節があり、そこには“罪悪感”が付きまとう。ありすもそれは同じで、ふとした瞬間に「私は守られてばかり」「みんなに迷惑をかけている」と視線を落とす姿が印象的だ。並外れた記憶力と料理の才能を持ったありすは、いわば“天才”。けれど、彼女自身は“普通”に憧れている。光や音を気にせず歩けて、空気が読めて、柔軟に相手に合わせ、うまく人と付き合える。そういう“普通”に。
でも、ありすが思う普通の人にも悩みはある。ありすのお店にやってくる常連客もそう。息子の受験に思い詰める主婦や、好きな人の気持ちを測りかねているOL、夫との離婚を考えている妻など、いろいろな問題を抱えている。もちろん、障害のある当事者にしか分からない苦しみがあり、私たちが抱えている悩みと比べられるものではないのかもしれない。だが、第8話における和紗の台詞にもあったように、障害があってもなくても、人間は誰しも一人では生きていけないのだ。心護や和紗たちの助けを借りながら、料理人として常連客の身体と心にエネルギーをチャージしていくありす。彼らはまるでパズルのようにお互いの凸凹を埋め合っている。
倖生はありすの料理店にやってくるまで、ある“罪悪感”を抱えていた。自分はゲイである父親が世間体のために結婚して生まれた子ども。いわばウソをつくための道具であり、自分が生まれてきて幸せになった人なんていないと思いながら生きてきた倖生。そんな彼がありすと出会い、心から必要とされることで自分を少しずつ許せていく過程があたたかい。
「ありすはいつも人生で今が一番嬉しいって思わせてくれて、その次にはその気持ちをさらに更新させてくれるんだよ」と心護に言われて育ったありすが、倖生に「倖生さんが生まれてきてくれて、今まで生きていてくれて、すごく嬉しいです」という言葉を送る。あなたが生きていることが嬉しい。不器用で愛おしい登場人物たちの姿を通して、本作は私たちに他人に迷惑をかけながら生きることに許しを与える。最終回は目前だが、ありすと倖生が何の罪悪感もなく笑い合えるラストを期待したい。
■放送情報
『厨房のありす』
日本テレビ系にて、毎週日曜22:30~23:25放送
出演:門脇麦、永瀬廉、前田敦子、大東俊介、北大路欣也(特別出演)、皆川猿時、萩原聖人、木村多江、大森南朋
脚本:玉田真也
音楽:横山克
演出:佐久間紀佳、鈴木勇馬
プロデューサー:鈴間広枝、諸田景子、松山雅則
チーフプロデューサー:三上絵里子
制作協力:トータルメディアコミュニケーション
製作著作:日本テレビ
©︎日本テレビ
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