『ドクタースランプ』パク・ヒョンシクの歌声が染み渡る 相反する感情に苦しむジョンウ

「誰かを許すのは、その人のためではなく自分のためよ。誰かを恨み続けるのはすごくつらい」

 Netflixで配信中の『ドクタースランプ』がクライマックスを迎えている。本作は、パク・ヒョンシクとパク・シネによるヒーリングロマンス作品で、日本の「今日のTV番組TOP10」上位入りの常連だ。本稿では第13話、第14話を中心にご紹介したい。

 物語は、パク・シネ演じる麻酔科医ナム・ハヌルが、激務とパワハラでバーンアウト(燃え尽き)症候群としてうつ病を患うところから始まった。同じ頃、ハヌルの高校の同級生で成績争いのライバルであった、パク・ヒョンシク演じるスター美容整形外科医のヨ・ジョンウも、何者かの陰謀により医療事故で患者を死なせてしまい、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を患う。ジョンウは自分が経営していた病院も、住むところも失くし、ハヌルの家が管理する屋根裏部屋に移り住む。人生のスランプに陥ったドクターたちが、支え合い、愛し合い、再生していく姿を描いている。

 第13話は、ジョンウの高校時代に遡り、家庭教師としてミン・ギョンミン(オ・ドンミン)がジョンウの家にやってきたところから始まる。ギョンミンは、厳格な家庭の様子を見て、ジョンウに会う前から彼に同情していた。ギョンミンはジョンウを大切に思い、ジョンウもまたギョンミンを兄のように慕っていく。ふたりは互いを大切に思い、温かな時間を紡いでいく。

 ジョンウの医療事故にギョンミンが関係していることは、物語の初めから怪しい雰囲気が漂っており、視聴者も気づいていただろう。しかし、ハヌルとギョンミンが事故に遭ったあとに、ギョンミンに起きていた出来事や、ジョンウへの気持ちを見せられるのがなんとも辛く悲しい。登場人物たちの置かれている環境や心情を対比して見せるのが、韓国ドラマはすこぶる上手い。善悪で割り切れない感情の揺らぎまで描いてみせるのだから、ギョンミンに同情を禁じ得ない。

 ハヌルは、ギョンミンがジョンウを陥れようとしたことを問いただすために、ギョンミンの車に同乗するが、ふたりが乗った車は何者かの襲撃で事故に遭ってしまう。ハヌルが事故にあったことを知ったジョンウとハヌルの母、コン・ウォルソン(チャン・ヘジン)、弟パダ(ユン・サンヒョン)、叔父テソン(ヒョン・ボンシク)はジョンウとともに病院に駆けつける。ジョンウは、ハヌルの容態を主治医から聞くが、知識があるだけに不安でたまらないと吐露する。徐々に回復を見せるハヌルを看病するジョンウ。病室でのふたりのラブラブモードに癒されるシーンだ。「優しい子犬」「わんぱくなリス」と言い合うふたりの超絶キュートなシーンを、ハヌルの母ウォルソンがバッチリ目撃しているのも面白い。

 回復を見せるハヌルをよそに、運転していたギョンミンは死が間近に迫り、ジョンウを呼び出す。ジョンウは、息も絶え絶えなギョンミンから謝罪をされるも、複雑な胸中で病室から出てしまう。

 ジョンウは、ジョンウの病院で死亡者を出さないようにと、ギョンミンがなんとかしようとしていたことを知り、ギョンミンを「許したい気持ち」と「許せない気持ち」の狭間で苦しむ。ジョンウがどれほどギョンミンを大事に思っていたかが1話を使って描かれ、ジョンウに感情移入して苦しくなる。ギョンミンから贈られたスーツを前に、これまでの中で、一番の大声で泣くジョンウ。ジョンウの脳裏に走馬灯のように巡る、高校生の頃からこれまでのギョンミンとの思い出の全てがこもった慟哭であり、観ていて共に涙した人も多いだろう。

 物語の中では、常に固く強張った様子だったギョンミンが、以前は優しい人だったことが明かされ、ギョンミンもまた「感情の板挟み」に苦しんでいたことがわかり胸が痛む。人が持つ感情は多岐にわたり、愛情と憎しみを同時に持つこともできる。その一見対立するように見える両極端な感情は、自分の中で強い力を発する。その矛盾した感情を持て余してしまうことが私たちを苦しめるのだ。黒なら黒、白なら白、としたいのだが、感情はそうはさせてくれない。グラデーションのように徐々に薄まっていくのを待つ“時間”という薬が必要なのだ。

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