『不適切にもほどがある!』胸が詰まる純子と渚の対面 昔話が“エモい”に変わる巧みな展開
「うん、大好き」と微笑む純子の言葉に、渚は安心したような表情を浮かべる。本当はもっといろんな話がしたいに違いない。母と娘でしかできない会話を。しかし、この状況ですべてを話すことは、純子にこの先の運命を知らせることになりかねない。ならばと渚は純子を買い物へと誘う。友達のようにショッピングをして楽しもうと考えたのだろう。昔話をするとき、人はその年齢の自分に戻っているのだ。同時に、その話に登場する人物たちもみんな若く、話しながら再会している気持ちになる。それはもうひとつのタイムマシンなのかもしれない。
エモケンが昔話ばかりをして打ち合わせがなかなか進まなかったのも、きっとどこかでいろんなことが変わってしまった不安や、親睦のあったかつての仲間たちがいないアウェイな空間に寂しさを感じていたからではないだろうか。もちろん、その時代を知らない人にとっては遠い過去の話にしか聞こえないだろうし、「知らねーし」「生まれてねーし」となっている若者をそのタイムマシンに乗せることは難しいかもしれない。けれど、若者側としてもその昔話の中にしか生きている人がいるということに思いを馳せるロマンを持っていて損はないのではないか。だって、今も1秒前はすでに過去になっていて、いつかは自分もそのタイムマシンを心の糧に生きることになるのだから。
なにせ学園ドラマで不良少女を演じていた三原じゅん子は政治家になり、バリバリのアイドルだったマッチだっていろいろあってレーサーになっているくらい、今あるものはみんな変わっていってしまうのが世の常だ。それこそ、大きな天災に見舞われることだってある。そんな激しい変化に対応していくためにも、人は過去からしか学べない。だから、昔話で過去と現在を行き来して、未来へのヒントをつかもうとするのではないだろうか。その構図は、このドラマそのものにつながっているようにも思えて興味深い。
そして、市郎が「どうなるかわかってる人生なんてやる意味あんのか、クソ」とつぶやいたボヤきが、このドラマの読めないストーリー展開ともリンクしているような気がする。予定調和に事が進む未来よりも、何が起こるかわからない未来こそ面白い。リスクヘッジに頭を悩ませているくらいなら、本当に考えなくちゃならないそのときまで、今この瞬間を好きなように楽しめ。そんなメッセージを受け取ったような第6話だった。
■放送情報
金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』
TBS系にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
出演:阿部サダヲ、仲里依紗、磯村勇斗、河合優実、坂元愛登、三宅弘城、袴田吉彦、中島歩、山本耕史、古田新太、吉田羊
脚本:宮藤官九郎
プロデュース:磯山晶、勝野逸未
演出:金子文紀ほか
主題歌:Creepy Nuts「二度寝」(Sony Music Labels)
編成:河本恭平、松本友香
製作:TBSスパークル、TBS
©︎TBS
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