ヴェネチア映画祭審査員特別賞受賞 アグニエシュカ・ホランド『人間の境界』5月公開へ
アグニエシュカ・ホランド監督最新作『Green Border(英題)』が、『人間の境界』の邦題で5月3日よりTOHOシネマズ シャンテほかにて公開されることが決定した。
本作は、ベラルーシ政府がEUに混乱を引き起こす狙いで大勢の難民をポーランド国境へと移送する「人間兵器」とよばれる策略に翻弄された人々の過酷な運命を、シリア人難民家族、支援活動家、国境警備隊の青年など複数の視点から描き出す群像劇。
監督を務めたのは、『ソハの地下水道』『太陽と月に背いて』『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』などを手がけてきたホランド。友人のカメラマングループと国境の写真を撮影するなど難民をめぐる問題を追っていた彼女は、この事態を受け情報が遮断された2021年に「国境に行くことができなくても、私は映画を作ることができる。政府が隠そうとしたものを、映画で明かそう」と本作の制作を決意したと語っている。
政府や右派勢力からの攻撃を避けるためスケジュールや撮影場所は極秘裏のうちに、24日間という驚異のスピードで撮影を敢行。隠蔽されかけた国境の真実を、大量のインタビューや資料に基づき、心を揺さぶる人間ドラマとして映像化。さらに、実際に難民だった過去や支援活動家の経験を持つ俳優をキャスティングしたことで、ドキュメンタリーのようなリアリズムが産み出された。
また本作は、第80回ヴェネチア映画祭コンペティション部門に出品され審査員特別賞を受賞したほか、ロッテルダム国際映画祭観客賞など、これまでに17の賞を受賞、20のノミネートを果たし(2024年2月27日現在)、世界各国の映画祭で高い評価を獲得している。
国際的な高評価の一方で、当時のポーランド政権は本作を激しく非難し、公開劇場に対して上映前に「この映画は事実と異なる」という政府作成のPR動画を流すよう命じるなど異例の攻撃を仕掛けた。しかし、ほとんどの独立系映画館がその命令を拒否。ヨーロッパ映画監督連盟(FERA)をはじめ多数の映画人がホランド監督の支持を表明し、政府vs映画という表現を巡る闘いが世界的な注目を集めた。政府からの猛批判は監督が訴訟を示唆するまでに発展し、宣伝会社のSNSに誹謗中傷が寄せられるなど監督自身が身の危険を覚えるほど論争が激化する中、ポーランド国内では公開されるや2週連続トップの観客動員を記録。ポーランド映画として当時年間最高となるオープニング成績をたたき出し、異例の大ヒットとなった。
あわせて公開された日本版ポスターは、ポーランドとベラルーシ国境の鉄条網を隔て、シリアからの難民である幼い少女と銃を携えた国境警備隊の兵士が相対するシーンを切り取ったデザインに。キャッチコピーは「その場所で、人間は兵器になる」。政治のコマとして移民を利用するベラルーシの策略に、幼い子どもすらも巻き込まれているという不条理な惨状が描かれている。
■公開情報
『人間の境界』
5月3日(金・祝)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国順次ロードショー
監督:アグニエシュカ・ホランド
出演:ジャラル・アルタウィル、マヤ・オスタシェフスカ
配給:トランスフォーマー
2023年/ポーランド、フランス、チェコ、ベルギー/ポーランド語、アラビア語、英語、フランス語/152分/G/ビスタ/カラー・モノクロ/5.1ch/原題:Zielona Granica/英題:Green Border/日本語字幕:額賀深雪
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