『宮古島物語ふたたヴィラ』の撮影で起きた奇跡 上西雄大監督が語る「再会」というテーマ
簡単にはキャスティングできない、錚々たるメンバーが顔を揃える
ーー今回の『宮古島物語ふたたヴィラ再会ぬ海』もまた家族の絆と再生の物語。さまざまな事情を抱えている家族が、再び愛情を取り戻し、新たな人生を歩み始める物語が展開していきます。その中に、性加害、動物愛護、ネットでの誹謗中傷など、ひじょうにタイムリーな問題が反映されている気がします。
上西:それはたまたまです。ただ、日々、新聞やニュース番組を見る中で、自分の中にひっかかってくる事件や問題は確かにあって。それが脚本の中に反映されているとは思います。基本的に僕が描こうと思っているのは、人間同士のやりとり。ある人と人がいて、偶然にしろ必然にしろその二人が触れあったとき、彼らはどういう心境になってどのような言葉が生まれるのか。人間同士が出会い、別れ、真剣に向き合う。そういう人間同士の心のやりとりを描きたい。いろいろな人間を描きたいと思うので、つい登場人物が多くなりがちで、群像劇みたいになっていってしまいます。
ーーその人物を演じる俳優さんたちにも注目です。簡単にはキャスティングできない、錚々たるメンバーが顔を揃えています。
上西:ほんとうにありがたいことです。たとえば僕の演じた津吉の母親役の松原智恵子さんは、前作に引き続きの出演ですけど、自分の映画に出ていただけるなんて夢にも思っていませんでした。最初にキャスティングの会議で、松原さんの名前があがってきたときに言いました。「映画界のレジェンドですよ。恐れ多い」と。でも、周りに押されて打診したら、「やったことのない役なので」と一度はためらわれたみたいなんですけど、最終的に「やったことのない役だからやってみましょう」と受けてくださったんです。もう信じられなくて、夢ではないかと思いました。
今回初めてご一緒したのが、笹野高史さん。笹野さんも尊敬してやまない、僕にとって役者の神様のような存在です。いつかご一緒できればと思っていて、今回実現しました。ご一緒して実感したのは、笹野さんの演技自体もすばらしいんですけど、さらに笹野さんの演技というのは相手の役者の力をも引き出してくれる力がある。僕自身、笹野さんの演技によって引き出されるものがいっぱいありました。だから、自分でみて、「自分のこんな表情を見たことがない」というシーンが今回はたくさんあります。また、奈美悦子さんは、実は逆オファーといいますか。僕の過去の作品を観てくださっていて、直接SNSでご連絡をいただいたんです。「なにかあったらぜひ」と。はじめは偽物かと思ったんですよ。SNSのいたずらかと。実際にお会いすることになって指定の場所に行ったら、ほんとうに奈美さんがいらっしゃった。で、今回の役を考えたときに奈美さんのことが思い浮かんでお願いしました。いまはバラエティ番組などでのご意見番といった印象が強いかもしれないですけど、やはり日本映画の第一線で活躍されてきたすごい女優さんで。役者として向き合うと、奈美さんのセリフって、きちんとした人の言葉になって、こちらの心に響いてくる。哀しさは哀しさとして、喜びは喜びとしてこちらに伝わってくる。そのことは、作品を観てくださった方も感じていただけるのではないかと思っています。
ーーつい「3作目は?」とお聞きしたくなるのですが。
上西:実はもう3作目も決まっていて、今春にクランクインする予定です。柴山会長に、寅さんのように作品を表す存在になっていただいて、『男はつらいよ』のように長く続くシリーズに成長させていけたらうれしいです。
■公開情報
『宮古島物語ふたたヴィラ 再会ぬ海』
3月1日(金)シネ・リーブル池袋ほかにて公開
出演:柴山勝也、上西雄大、古川藍、徳竹未夏、賀集利樹、筒井巧、優木千央、ルビー・モレノ、春田純一、佐々木勝彦、奈美悦子、村田雄浩、笹野高史、松原智恵子
監督・脚本・プロデューサー:上西雄大
エグゼクティブプロデューサー:柴山勝也
制作:10ANTS
撮影:阿部拓歩、北田祥喜
編集:目見田健
照明:齋藤正貴
録音・整音:丹雄二
助監督:中根克
音楽:川人千慧 『ふたたびぬ歌』
作詞:上西雄大
主題歌・作曲・唄:下地正晃
編曲:西込加久見
挿入歌・作曲・唄:りょうげんぞう
©︎上西雄大
2023年/日本/カラー