『僕が宇宙に行った理由』平野陽三監督が語る宇宙での撮影体験 貴重な12日間の宇宙旅行

 実業家の前澤友作が宇宙へ行った道程を追いかけたドキュメンタリー映画『僕が宇宙に行った理由』が公開中だ。

 宇宙飛行に耐えうる身体作りのための過酷な訓練を経て、ISS(国際宇宙ステーション)で12日間過ごした貴重な映像を余すところなく見せる作品で、迫力ある打ち上げシーンと宇宙から見た美しい地球が見どころだ。

 本作を監督した平野陽三に、この記録を映画としてまとめた動機、宇宙撮影ならではのエピソード、民間人として体験した宇宙旅行について、貴重な体験を語ってもらった。

「宇宙での撮影は意外と心地よい」

――宇宙ならではの撮影の苦労はありましたか?

平野陽三(以下、平野):思っていたより無重力状態での撮影は楽でした。カメラの重みがないので腕も疲れないですし。ただ、身体も同時に浮いてしまうから、足を引っ掛けるなりして固定する必要があります。基本的には、フワフワ浮きながらの心地良い撮影空間でした。苦労という点で言えばバッテリーですね。電気は基本的にISSの生活用と実験用に回されるし、そもそもコンセントはなくPCS(パワーコンディショナ)にUSBをつないで充電するように言われました。しかし、キープするのがやっとくらいしか充電できず、持ち込んだバッテリーの容量でやりくりしないといけなかったんです。

――バッテリーの問題は大変ですね。ISSには撮影機材を自由に持ち込めるのですか?

平野:基本的には、これまでISSに持ち込まれた実績のある機材に近しいものという制約があります。僕らはソニーのカメラ2台とGoProとiPhoneだったんですが、まずは耐久・破壊テストのために3台ずつ提出して、クリアできたものは持ち込めるようになります。破壊テスト用の3台は自腹で用意する必要があります。

平野陽三

――宇宙遊泳をGoProで撮影するのは楽しそうですね。具体的にどのカットでGoProを使用しているのでしょうか?

平野:ソユーズ乗船中の映像や、ISSのモジュール内を移動するカットは大抵GoProで撮っています。

――宇宙から地球を最初に目にした時の印象はどんなものでしたか?

平野:最初に地球を見たのは宇宙船ソユーズの船内からでした。右側の窓から地球の光が差し込んできたのが上空200キロぐらいの地点で身体が少しずつ浮いているのがわかります。最初の印象は「まぶしい」ですね。地球にいるとわからない、他の星が光るのと同じように太陽に照らされているんだと初めて実感できて感動しました。

平野陽三

――地球がまぶしいということは、撮影の際、光量の問題とかはなかったのですか?

平野:地球の撮影は時間や気象条件によります。例えば、東京の上空を撮りたいと思って構えていても、その時間に雲がかかっているともう撮れず、次回日本上空を通るタイミングがしばらく先になってしまう。また、ISSは地球の周りを1日に約16周しますから昼と夜が90分に一回ずつやってきます。グズグズ撮影していると、すぐに夜になってしまうんです。タイミングを逃すとまた45分待たないといけません。

――そう簡単に撮影できるわけではないんですね。映画に映し出される地球は本当に美しかったですが、あれはカラーコレクションをしているのですか?

平野:調整程度に多少していますが、雲がかからず太陽の光もきちんと当たっているタイミングに合わせられれば、誰でもあのように美しい地球を撮影できます。

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