『いちばんすきな花』にみる“相容れない価値観”との向き合い方 最終回で4人の共同生活へ

 「気にするな」と言われて気にならなくなるのなら、最初から気をもんだりなどしない。自分が全力を尽くした作品を「ゴミ」だと批判されたり、まわりと違う部分を「おかしい」と指摘されたり……。一つひとつは小さなかすり傷程度かもしれないけれど、その数が多く、そして長く続くと致命傷になることもある。

 そんな心に傷を負った人に「気にしなくていい」と言ったとしても、気休めにもならないことは重々承知なのだが、それでもほかに慰める言葉が見つからなくて、ついそう言ってしまう気持ちもわかる。なぜなら、その摩擦を根本的になくすことなどできないから。

 木曜劇場『いちばんすきな花』 (フジテレビ系)第10話は、多様性が叫ばれる現代において、相容れない価値観とどう向き合えばいいのかを改めて考えさせられる回だった。

 「2人組になることが苦手」という同じ痛みを抱えていることから距離を縮めた、ゆくえ(多部未華子)、椿(松下洸平)、夜々(今田美桜)、紅葉(神尾楓珠)の4人。だが、全員と共通の知人であった美鳥(田中麗奈)を迎えたところ、「5人組は違う」とはっきり言われてしまう。そして「2人組が4つあった」とも。

 5人で集まったときの違和感は、椿が好きな花だけを集めた花束そのものだった。弟の楓(一ノ瀬颯)に「大事なのは組み合わせ」「人間関係も同じ」と諭されたように、単純に好きな人を集めても、居心地がいい空間が生まれるわけではない。

 人は組み合わせ次第では、生まれる話題も、流れる空気も、そして自分自身の顔さえも変わる。「グループよりも少人数で会いたい」という人もいる。そこに実らぬ恋心が芽生えることもある。

 これだけ好き同士の5人が集まっても、異なる意見が生まれるのだ。人が自分とは違う価値観を抱くのはごくごく自然なことで、むしろそれを避けて通ることなどできないのだと、彼らを見ていて気付かされる。

 問題は、その価値観の違いで生まれた摩擦にどう向き合っていけばいいのかということ。もちろん、話し合ってお互いの意見を尊重することができれば最高なのだけれど、それこそ「気にするな」と同じで、そもそも相容れることができるならば衝突しないはず。「話し合えばわかり合える」は理想論でしかないことを、もう多くの人は知っている。

 紅葉のイラストを批判した人は、紅葉とは違うものをいいと感じる人なだけ。保健室登校の希子(白鳥玉季)を腫れ物に触るように接するクラスメイトは、“普通“に登校できることこそ正しいと思っている人たちなだけ……。

 そういう人たちがいる、ただそれだけなのだ。でも、その数が多いとその価値観こそがあらがえない大きな流れのように見えてしまう。もちろん、そうではない感覚の人もいるのだけれど、その言葉や視線を突きつけられた人からすると、自分を排除する人しかいないと感じてしまうもの。

 自分がいいと思っているものを否定する価値観を受け入れるか、排除され続けるか。目の前にその2択しかないと思うと、人生はとたんに息苦しくなる。でも、そんなときに「受け入れなきゃいけないってこともないよ、ない」と言ってくれる人がいるかどうかで、人は救われるのだ。

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