『メアリと魔女の花』に受け継がれるジブリの系譜 米林宏昌監督の集大成となる一作に

 スタジオジブリで『借りぐらしのアリエッティ』(2010年)と『思い出のマーニー』(2014年)を監督した米林宏昌が、スタジオポノックで手がけた『メアリと魔女の花』(2017年)が、12月15日に日本テレビ系『金曜ロードショー』で放送される。メアリー・スチュアートの絵本を原作に、少女が魔法学校に行って大冒険を繰り広げる物語を、美しい映像と目を引くアクションで描いた。同じスタジオポノック作品として12月15日に公開の百瀬義行監督作品『屋根裏のラジャー』とも重なる、子供をワクワクさせ、大人もドキドキさせるファンタジーだ。

 思い出のマーニーが、魔女の宅急便になりすまして天空の城ラピュタに行き、千と千尋の神隠しに遭ってハウルの動く城に迷い込む。長くスタジオジブリの作品を観てきた人だと、公開時に本作をそのような印象で捉えたかもしれない。

 こう書くと、ジブリ作品のパッチワークのように思われてしまいそうだが、少女なり少年が田舎で不思議な出来事に巻き込まれ、恐ろしい目にも遭いながら成長していくというプロットは、宮﨑駿監督の10年ぶりの新作『君たちはどう生きるか』(2023年)にも使われたもの。ファンタジーの王道とも言える導入部で、その後に起こる出来事をどのように創造するか、そしてどのような絵にするかによって、映画の出来上がりはまったく違ったものとなる。

 『メアリと魔女の花』の場合は、世界の危機に立ち向かう少女の戦いというストーリーが作品の軸にある。それは、少女たちが不思議な出会いをする『思い出のマーニー』にも、独り立ちした魔女の奮闘がメインとなっている『魔女の宅急便』にもなかったものだ。近いのは『千と千尋の神隠し』(2001年)だが、『メアリと魔女の花』には千尋のような鬱屈からの消極的な逃避とも違った、好奇心からの積極的な前進がある。そして、クライマックスに近づくに連れ、進んでいこうとする意識がどんどんと高まっていく。

 すべてが終わったときに、ああ良かった、頑張った、そして自分も頑張ろうと思えてくるはずだ。

 大叔母さんが暮らしている田舎にやって来た少女メアリは、学校が始まるまでの間を退屈して過ごしていた。何かを手伝おうとしても、不器用なのか大叔母さんのコップを落としそうになったり、庭の花の茎を折ってしまったりと失敗の連続。そんなふがいない自分の居場所に迷っていた。

 そこに一つのきっかけが訪れる。黒猫に引っ張られるように入った森で、メアリは美しく咲く「夜間飛行」という名の花を発見する。その後、再び入った森でメアリは蔦に絡まっていた古い箒を見つけ、その箒に引っ張られるように空へと舞い上がって雲の上を飛び、渦巻く巨大な雲の奥にある島のような場所へと降り立つ。

 そこはエンドア大学。魔法について学ぶ魔法使いたちが集められた学校で、メアリはなぜか優秀な魔法使いだと思われて良い気持ちになる。けれども実は、エンドア大学では密かに恐ろしいことが行われていて、「夜間飛行」のことを知っていたメアリに危機が迫る。

 そうした展開に、田舎で暮らすことになった少女が孤独な心を異世界に遊ばせる『思い出のマーニー』や、パズーとシータが竜の巣に飛び込んでいく『天空の城ラピュタ』(1986年)といったジブリ作品のビジョンが浮かばないこともない。クライマックスに現れる驚異的で超常的な存在との対峙は、『もののけ姫』(1997年)におけるアシタカとサンによるたたり神との対決と重なる。

 ジブリ作品が好きな人にとっては、思い出を刺激されて懐かしさと楽しさが浮かぶ描写と言えるだろう。そうでない人も、ジブリの系譜を受け継ぐ背景美術スタッフが描いた豊かな自然や、飛行ありバトルありといった派手なアクション描写に目を見張るはずだ。

関連記事