『マイハル』広瀬アリスが道枝駿佑に別れを告げる 拓の本気が伝わってくる重みのある言葉

 人生にはいくつものタイムリミットがある。求人情報に年齢制限の記載はなくとも、未経験で異業界に就職するには大きな壁があるのが現実だ。妊娠・出産だって何歳でもできるものではないし、極端なことを言えば、今生きているこの命だっていつかは終わりを迎えるのだ。そんな動かしようのないタイムリミットを知りつつも「いつか」「いつか」と夢を見ながら「今」この瞬間に没頭できる時間こそが、「青春」と呼べる日々なのかもしれない。

 火曜ドラマ『マイ・セカンド・アオハル』(TBS系)第8話は、佐弥子(広瀬アリス)が拓(道枝駿佑)に別れを告げる衝撃的なラストで幕を閉じた。そのシチュエーションが、ふたりが出会ったときと同じ“じゃんけんグリコ”というのも、また胸が締め付けられる演出ではないか。

 どん底OLとしてくすぶっていた佐弥子に拓が「大学生になりなよ」と背中を押した“じゃんけんグリコ”。その“貸しイチ”を、今度は世界に羽ばたくことを諦めようとする拓に佐弥子が「行ってきなよ」と背中を押して返そうとしていたように見えた。拓に舞い込んだスイスの有名建築家からのオファーは、誰が聞いても飛びつくべきチャンスだ。きっと少し前の拓だったら、まったく迷うこともなかったはず。それでも「行けない」と断ったのは、佐弥子なしの日々に拓が耐えられないから。

 これまで実の家族にさえ、なかなか本音でぶつかることのできなかった拓にとって、佐弥子に言った「家族になりたい」という言葉がどれほど重みのあるものか想像に難くない。「大学院も、師事する建築家も、いくらでも代わりはいる。でも佐弥子さんには代わりはいないんですよ」。その言葉に拓の本気が伝わってくる。もし、佐弥子が拓と同じ年齢であれば、その言葉を素直に喜んだかもしれない。でも佐弥子は拓より10年分の人生経験がある。そして20代に失った機会が、どれほど将来に大きな影響を及ぼすかを誰よりも知っている。だからこそ、たとえ自分が身を切られる思いをしたとしても、拓にチャンスを掴んでもらいたいと願ったのだろう。

 また、佐弥子自身も人生のタイムリミットを考えなければならない理由もあった。このまま大学を卒業して、就職するころには35歳。それから数年間バリバリと仕事をこなしたらすぐアラフォーに。そうなれば、いよいよ子を持つのか持たないのかをはっきりと決めなければならなくなる。そんな佐弥子の年齢を軸にして、拓の人生を縛り付けていいのかと悩んでいたのも事実なのだ。ならば、いっそこのタイミングに別れを選ぶことで、心置きなく拓を応援できると考えたのだろう。拓のことが大好きだから。その才能を誰よりもリスペクトしているから。彼の重荷や足かせにならずに一番の味方として支えることができるなら、この別れは決してネガティブなものではない、と。「別れよっか」と提案した笑顔の裏には、そんな考えがあったのではないか。

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